『イチケイのカラス』にあった“『HERO』的な瞬間” 竹野内豊×黒木華の距離も接近中?

『イチケイのカラス』で想起する『HERO』

 家政婦として働いていた被告人の高見(春木みさよ)は、雇い主である桐島優香(八木さおり)を桐島家の3階のバルコニーから転落させ、適切な救護を行わずに放置。死に至らしめたとして殺人罪で起訴される。しかも事件の1年前に被害者は、被告人に多額の遺産を遺すことを弁護士に伝えており、遺産目当ての犯行であると考えられた。ところが被告人は遺産のことは知らず、また第1回公判から事故であることを主張するのである。

 5月31日に放送された『イチケイのカラス』(フジテレビ系)第9話で描かれたのは「裁判員裁判」。2009年に制度が始まり、すでに12年もの月日が経つなかで、これまで10万人以上の市民が重大な刑事事件の裁判に参加してきたが、いまだに市民生活にあまり浸透していないことはたしかかだろう。「法律の知識がなければ難しいのでは」「1人の人間の人生を左右する判断を下すことが重すぎる」「もし判決を間違えてしまったら」などといったネガティブなイメージというものは、一度根付いてしまうとそう簡単に拭いきれるものでもない。

 今回の劇中でも、裁判員に選定されるやいなや「降りたい」と言い出す者や、提示された証拠以外のネット情報で先入観をもって判断しようとする者、はたまた被害者が亡くなる瞬間の証拠映像を見て心理的なダメージを受ける者など、境遇も違っていれば裁判に対するモチベーションも大きく異なる裁判員たちの議論の応酬が、それぞれの心理の変化とともに矢継ぎ早に重ねられていく。そしてそれらが、このドラマのテーマである“真実の追求”、すなわち「気になることを徹底的に調べ上げる」という“職権発動”と適切な親和性をもって描写されていくのだ。

 入間(竹野内豊)がいつもの“おいっ子トーク”ならぬ“めいっ子トーク”として語る、「みなさんが思ういろいろな正しさから真実を見極めることが裁判員裁判」であること。また坂間(黒木華)が入間の言葉に呼応するように語る「人は矛盾していて割り切れない。善人にも悪意がある。悪人にも善意がある。決して一色には染まらない」という言葉。前述したような、裁判員裁判に対する個々のイメージを尊重しながらも、制度の必要性を説き、考える余地を与える。刑事裁判官という題材を限りなくポップに描くこのドラマがやるべきことがこのエピソードには集約されており、それは間違いなく、ここまでの積み重ねがあってこそ生じる説得力を伴っていると見える。そういった意味で、前回に引き続き終盤のエピソードとしては実に適切なテーマといえよう。

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