『おちょやん』が描いたすべての人を肯定する優しさ 何度も噛み締めたい千代の言葉

『おちょやん』何度も噛み締めたい千代の言葉

 『おちょやん』(NHK総合)が終わってしまった。コロナ禍であろうとなかろうと生きるのはしんどいし、誰にでも思いがけない試練が降りかかることがある。女優・浪花千栄子の人生をモチーフにした竹井千代(杉咲花)の物語は、すべての人の人生を肯定する優しさに溢れ、笑って泣ける喜劇の魅力を見せつけてくれた。

 9歳で奉公に出された千代がスター女優の高城百合子(井川遥)の舞台を観て芝居に魅了され、えびす座の支配人の熊田(西川忠志)から『人形の家』の台本はもらったことが女優の道を歩むことになるきっかけとなった。小学校にも通えなかった千代(少女時代/毎田暖乃)は一平(少年時代/中須翔真)に読み方を教わり、繰り返し何度も主人公ノラのセリフを口にする場面が登場する。

 特に印象的だったのが、終戦を迎えた日。軒下でうずくまった千代が絞り出すようにセリフを口にしたシーンの美しさだ。「私はただ、しようと思うことは是非しなくちゃならないと思っているばかりです」「私には神聖な義務がほかにあります」「私自身に対する義務ですよ」と、思うまま、自由に大声でしゃべることで解放感を味わう。彼女は芝居によって救われ、舞台に立ち、役に徹してセリフを言うことで現実には伝えられない思いを言葉にしてきた。

 一平(成田凌)は「人の苦しみがそない簡単にわかってたまるか。どんだけ知ったふうな口たたいても、おまえの苦しみはおまえにしかわからへん。おれの苦しみはおまえなんかには絶対にわからへん。そやから俺は芝居すんねん。芝居してたらそういうもんがちょっとはわかる気がする。わかってもらえる気がする」と千代に言った。第8週、撮影所にやってきた父・テルヲ(トータス松本)に全財産を持っていかれ、女優としても自信をなくしていた千代への言葉である。

 また、「つらいことも恥ずかしいことも目そらさんとみんな芝居にする。そないしたらな、哀しいけどどっか滑稽な人の生き様いうもんが見えてくんねん」というのも一平のセリフだ。親との葛藤やつらいことがあると自暴自棄になるところがあるし、人としてダメなところも弱い部分もあるが、一平の喜劇に対する思いは一貫している。子供の頃から孤独を抱えてきた千代と一平はお互いの変わらない部分も理解し合ってきた。2人は芝居によって救われてきたのだ。

 もちろん、演じる側の人間、千代や一平が芝居によって救われてきただけではない。みつえ(東野絢香)もまた千代や一平、家庭劇の芝居によってどん底から前を向くことができた一人だ。



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