『樹海村』は『犬鳴村』からどうアップデートされたか ほぼ同じプロットの中に感じる革新

『樹海村』前作からどう変化された?

よりロジカルなキャラクター、名俳優らによる演技の説得力

 実はプロットの類似点は、冒頭のシーンからすでにある。心霊スポット潜入動画撮影だ。『犬鳴村』は1組のカップルが犬鳴トンネルに入り込み、ビデオデープを回すところから始まる。彼女の方が心霊現象をカメラに収めようとし、結果怪異に襲われ気が触れてしまい、自殺する。ここで疑問に思うのが、なぜ彼女はiPhoneで時間を確認するほどのスマホ世代であるにも関わらず、ハンディのビデオカメラで撮影しようとしたのか。のちに彼女が悠真と同棲している部屋が映るが、そこには自撮り用のLEDライトが置いてあった。普段から動画撮影をし、アップロードしている気配がするが別に本格的な機材はない。だからこそ、その程度の撮影なら簡単なスマホですればいいのに、わざわざ旧式のビデオカメラを用いているのだ。

『樹海村』(c)2021『樹海村』製作委員会

 それに比べ、『樹海村』はYouTuberのアッキーナ(大谷凜香)が樹海でスマホを使って生配信をするという、説得力しかない自然な撮影の流れだった。手振れ上等、コメント欄のコメントもリアリティのあるものばかりで、臨場感を強く感じる。普段、心霊スポット突撃実況動画を観ている方が、その後の展開にしっかりと青ざめる演出だ。それだけでなく、それにコメントをする妹・響の部屋の様子も彼女の性格をしっかり表すように細部までディテールにこだわりを見せた。

『樹海村』(c)2021『樹海村』製作委員会

 そしてこの響には『犬鳴村』の奏と同じ、幼い頃から幽霊の類が見える設定がある。しかし、二人が幽霊を観た時の反応は異なる。子供の頃からずっと見えているのであれば、それが怖いとしてもある程度の“慣れ”があるはず。響のようにハッと驚きながらも口をつぐんでジッとしている素振りの方が、奏のような毎回オーバーなリアクションを取るよりもそういった意味で説得力があるのだ。「ああ、まただ……」という具合に。しかも、奏は病院に勤務しているので、“そういう”出来事はむしろ日常茶飯事でもありそうなので、この点でも少しキャラクターと行動が乖離している。

 このキャラならこれを使うだろう、こういう部屋にいるだろう、こういう行動を取るだろう。登場人物がどれだけロジカルに動くか、ということが全てではないが、それでもそれが物語に圧倒的な説得力を持たせることは確かである。

『樹海村』(c)2021『樹海村』製作委員会

 しかし、どれだけロジカルなキャラクターだとしても、そういう風に体現できるかは役者の腕にかかってくる。『樹海村』はその点でも、主演だけでなく脇まで演技派揃いであった。主演を務め、現在引っ張りだこの山田杏奈はこれまでに見せたことのない顔を見せ、『ラビット・ホラー3D』の撮影にエキストラで参加していた山口まゆは、10年ぶりに清水崇監督作にて女優としての成長を発揮した。神尾楓珠はじめ、他キャストも皆すばらしい演技を披露していたが、やはり國村隼の存在感が作品全体に大きな説得力を持たせた。映画の冒頭から、樹海について様々なことを知っている謎の男として登場し、随所随所に再び現れる強者の趣。あれには怨霊も立ち向かえまい。

『樹海村』(c)2021『樹海村』製作委員会

 そして登場人物に関してもう一つ特筆するとすれば、「友達」の機能だ。『犬鳴村』では悠真の友人が彼に連れられてトンネルに向かい(特に何もせず)、電話ボックスで溺死した。彼らが活躍するのは死後で、正直単純な幽霊要員でしかなかった。それに対して、『樹海村』に登場する友達は凄い。ただ死ぬために引き摺り出されただけではなく、しっかり姉妹と長い付き合いがあること、その関係性の中で『あいのり』よろしく様々な矢印が飛び交っていることなど含め、ちゃんと各々のキャラクターの背景、特に主役の姉妹の人物描写を担っているのだ。このように、『樹海村』は登場人物を余すことなく生かした作品であった点が、『犬鳴村』との大きな違いだと思う。

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