トム・ハーディの独演会&ズッコケ珍道中 『ヴェノム:ザ・ラストダンス』の適当な“ヌルさ”
宇宙人に寄生されたジャーナリストのエディ(トム・ハーディ)は、人は食うけど心は優しきヒーロー“ヴェノム”として巨悪と戦っていたが、いろいろあって追われる身となってしまう。そんなとき、闇の神様“ヌル”が、自身にかけられた封印を解くために、ヴェノムとエディを狙って刺客を放った。ヌルの封印が解けると、宇宙全体がヤバイことになってしまう。かくしてヌルの復活を防ぐために、ヴェノムの最後の戦いが始まった。
というわけで『ヴェノム』シリーズ(2018年~)の最終作である。「どう作ろう?」という迷いが前面に出ていた1作目、「この路線に舵を切ろう!」という手堅い思想で作られていた2作目、そして3作目は……トム・ハーディの独演会&ロードムービー風味の、ズッコケ珍道中ひとりバディSFアクションだ。
同シリーズの1作目は、バイオレンスやダークさのレベルをどこに設定するか悩んでいた感があった。しかし2作目ではトムハ自身が脚本に参加して、80年代のバディアクションを彷彿とさせるコメディ調の作品に方向転換。そして3作目、つまり本作『ヴェノム:ザ・ラストダンス』(2024年)では、その傾向がさらにパワーアップ。前作以上に中年男子児童映画としての側面が強くなっている。正直「トム・ハーディさん、これってアナタがやりたかっただけですよね?」と思うことが度々あるが、その適当(テキトーではない)なヌルさが個人的には心地よかった。「一回、こういうのやりたかったんだろうなぁ」と、勝手にトムハの心中を察して暖かい気持ちになること必至だ。トム・ハーディ、47歳の秋だから。
繰り返しになるが、観ていて「?」な箇所は多々ある。冒頭10秒で広げられる「邪悪な神様が復活しますよ」というデカすぎる大風呂敷に、無敵すぎる敵、定番キャラの割と無茶な再登場などなど、映画のトーンはシリアスとコメディの合間でブレまくる。いろいろな過去の名作からの「っぽさ」の引用も多い(『E.T.』(1982年)や『ターミネーター2』(1991年)など、「『金曜ロードショー』で昨日観て面白かった」くらいの感じで入っているのが素敵だ)。さらに道でバッタリ会う家族がヒッピー調で、60~70年代に大活躍したキャット・スティーヴンスの曲を流す荒技で、どこかあの頃のロードムービーっぽさも醸し出している。さらにさらに、トム・クルーズへの言及や、短パンTシャツからタキシードへのお色直し&「オレってセクシーだろ?」ギャグなどなど、楽屋ネタっぽさまで詰め込まれているのだ。その全てが「たぶんトムハがやりたかったんだろうなぁ」の、ひと言に集約されていくのがズルい。トムハの人徳がなせる技である。そしてメチャクチャな映画だと思いつつ、最後はよく分からないままウルっと来るのもズルい(私の涙腺が加齢で緩んでいるだけの可能性も高いが)。