コロナ禍で試される医療ドラマ 『にじいろカルテ』が医療従事者を英雄視しないワケ
2021年、医療モノの連続ドラマの真価が問われている。
これまで安定した視聴率が稼げる医療ドラマは各局が必ず手を出すジャンルだった。しかしコロナ禍の今はその鳴りを潜めるしかない状態。その暗雲たれ込めたテレビ業界の状況に風穴を開けるべく、新たに誕生したのが『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)だ。この作品はまさに、コロナ禍の今だからこそ観るべき価値のある医療ドラマとなっているように思う。
このドラマにおける設定の妙は2つある。ひとつは舞台を山奥の「虹ノ村」にある診療所にしたこと。もうひとつは主人公の真空(高畑充希)自身が多発性筋炎という難病を抱えた内科医であることにある。
従来の医療ドラマといえば、緊急性の求められる環境での緊迫感のある医療行為につい目が行きがちだった。病院という「死」に最も近い現場で、患者を「生」へと導く姿はたしかに感動的だ。そもそも人の命を救う医師はヒーローとして描きやすいし、看護師を含めたチームで団結して患者を救う姿は、「絆」「希望」「感動」を手軽にお茶の間に届けられる。病院はドラマにとって最高の現場だったのだ。ただ今作の舞台となるのは大病院ではなく、虹ノ村という架空の田舎の診療所。そして扱われるのは「地域(僻地)医療」だ。病院は病気を検査して「キュア」(治す)する場所であるが、村の診療所の役割はそれだけではない。治したら終わりではなく、地域全体の暮らしを支えて見守る、「ケア」(癒やす)の使命を担っている。診療所を訪れる患者は、そこを一歩出たらただの生活者に変わる。主治医は患者の病とともに村での生活をまるごと診ていく必要があり、「地域の暮らしを支える」医療を提供するのが真空らの仕事となる。
視聴者が『にじいろカルテ』に引き込まれているのは、私たち自身が今「キュア」よりも「ケア」を求めているからではないだろうか。虹ノ村はある意味理想郷だ。住人同士の互助の仕組みがしっかりできていて、診療所の3人は病にではなく人に焦点を当てて診察してくれる。この思いやりにあふれた世界で起こる優しい出来事に、癒やされている人も多いはずだ。どうやらこのドラマは、テレビを通して視聴者の心の「ケア」をもしてくれているように感じる。「メンタルヘルス」の重要性が叫ばれる今だからこそ、緊張をほぐしほっこりさせてくるドラマの存在はとても貴重で、ありがたい。