コロナ禍で試される医療ドラマ 『にじいろカルテ』が医療従事者を英雄視しないワケ
医師でありながら難病を抱える主人公という設定も見事に機能している。真空は大病院では「医療の現場に必要なのは患者じゃない」と切り捨てられ、虹ノ村診療所で新生活をスタートさせる。5年生存率60~80%とされる多発性筋炎という病気と向き合いながら、医師として患者と向き合うことで描かれるのは、「ケアする側の人間は、ケアされる側の人間でもある」という事実だろう。医師というと、『ドクターX 』シリーズ(テレビ朝日系)における大門未知子のような完璧な存在を想像しがちだが、実際は神でもヒーローでもなく、ただの人間だ。不安や孤独にも見舞われるし、自分自身が患者になる可能性だってある。真空という存在は、そんな当たり前のことを思い出させてくれる。
コロナ禍の今、現実世界の医療従事者は心を砕いて激務をこなしてくれている。感染の不安や恐怖、さらには世間の偏見や差別に対する体力的・精神的なストレスは想像を絶するものだろう。そんな中で人々は医療従事者を「ヒーロー」だと称賛し始めた。この状況は、心身が限界の医療従事者を追いつめ、彼らの犠牲を当たり前の美徳とする空気を醸成させているように思う。「人の命は何よりも重い」と誰もが言うが、目の前の命を助けるために奮闘している医師や看護師の命は軽んじられてはいないだろうか。医師は聖職でもなければ、看護師は天使でもない。労働者である以前に、私たちと同じ「人」で、私たちと同様に誰かに救われなくてはいけない存在だ。私たちはもっと、医療従事者自身のケアにも目を向けるべきなのだ。
第6話では病に倒れた真空のもとに村人たちが駆けつけ「にじ」を歌うシーンが描かれていた。「医師は患者を救うと同時に、患者に救われている」という事実を今作は度々伝えてくれているが、人間はまさに関係性の中で成長する生き物だ。このドラマは人々の支え合いをしっかり描くことで「ともに生きる」という医療の信念を示してくれているように思う。医師も患者も、本来尊重し合う対等な関係。誰かが一方的に誰かを救う物語ではなく、今作のようにみんなで寄り添いながら生きる姿を描くことこそが、これからの医療ドラマのあり方なのかもしれない。
■綿貫大介
編集者・ライター/雑誌等で取材・執筆を行うほか、個人でインディペンデントマガジンやZINEを制作している。近著に『ボクたちのドラマシリーズ』。BRUTUSで「TVウォッチャー綿貫大介のパンチラインテロップ」を連載中。Twitter
■放送情報
『にじいろカルテ』
テレビ朝日系にて、毎週木曜21:00〜21:54放送
出演:高畑充希、井浦新、北村匠海、安達祐実、眞島秀和、光石研、西田尚美、泉谷しげる、水野美紀、モト冬樹、半海一晃、池田良、水野久美
脚本:岡田惠和
演出:深川栄洋
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサ:貴島彩理(テレビ朝日)、松野千鶴子(アズバーズ)、岡美鶴(アズバーズ)
制作:テレビ朝日、アズバーズ
(c)テレビ朝日
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