西田敏行から放たれる“人間の業” 『俺の家の話』観山寿三郎役は紛れもない集大成に
「ハナハナハナハナ秘すれば花」「ホテルとオフィスのディスタンス」……ヤバい、“潤 沢”の新曲「秘すれば花」のメロディが頭から離れない。いやあ、凄かったですね、阿部サダヲ。他の人が演じたら大事故になりかねない“たかっし”を完璧な笑いに昇華させる役者力。よっ、大人計画!
……って違う違う。確かに『俺の家の話』(TBS系)第6話は、小ネタに本筋が絡みまくって最高だったけれど、ここでフィーチャーしたいのは観山家不動のセンター・観山寿三郎を演じる西田敏行について。
西田敏行が宮藤官九郎の脚本、長瀬智也主演のドラマに出演するのは本作で3度目。『タイガー&ドラゴン』(2005年・TBS系)では、弟子入りしてきたヤクザの小虎を落語の世界で受け止める師匠・林屋亭どん兵衛を、『うぬぼれ刑事』(2010年・TBS系)では、息子が担当する事件に首を突っ込む元警察官の父・葉造を演じ、いずれも鮮やかな印象を残した。
そして、長瀬智也がプレイヤーとしての区切りをつける本作で西田が担うのは、主人公・寿一の父、人間国宝の能楽師・観山寿三郎。これまでシテ方として1万人の弟子たちを束ねてきたものの、今は身体を壊して電動車いす生活を余儀なくされている上に、認知症の症状もあり、入浴すら一人でできない老人だ。
老人……まさか、名優・西田敏行に対してこんな表現を使う日が来るとは思ってもいなかった。『池中玄太80キロ』(1980年・日本テレビ系)では、亡き妻の遺した血のつながらない子供たちを育てる父親を演じ、映画『釣りバカ日誌』シリーズには、20年に渡って主人公のハマちゃんこと浜崎伝助役で出演。さらに三谷幸喜が脚本と監督を手がけた映画『有頂天ホテル』の演歌歌手や、『ステキな金縛り』の幽霊・更科六兵衛、北野武監督『アウトレイジ』の任侠・西野はこの人にしか演じられないキャラクターである。
これまであらゆる人物を演じてきた西田敏行。俳優として超一流である彼が、本作『俺の家の話』では、年齢からくるさまざまな衰えを隠さず、むしろすべてをさらけ出しながら老いた人間国宝の姿を体現している。尊い、などという言葉では甘い。なんと凄みに満ち、人という存在の深淵に迫った演技だろう。
西田敏行が担う寿三郎の姿から私たちが受け取るのは「人間の業」だ。