伝統芸能とホームドラマのマッチングが見事! 能の演目で『俺の家の話』前半5話を振り返る

能の演目で『俺の家の話』前半5話を振り返る

 2月19日放送の第5話でいよいよ折り返し地点まで来た『俺の家の話』(TBS系)。二十七世観山流宗家にして「能楽」の人間国宝・寿三郎(西田敏行)は、一番弟子の寿限無(桐谷健太)に対して、これまで隠してきたが実は女中に産ませた自分の子どもだと告げた。そのショックで寿限無は40歳にして反抗期に突入。彼の怒りは正妻の子であり跡継ぎの長男として育てられた寿一(長瀬智也)に向けられる。寿限無は、恵まれた境遇でありながら家出してプロレスラーとなり、しかも25年後に戻ってきて宗家になると言った寿一が許せない。「親父の跡を継ぎたいのなら、能で俺に勝ってみろよ!」と宣戦布告する。そんな中、寿限無が自室に引きこもり、デスメタルを大音量でかける場面は、長瀬と桐谷が共演した映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(同じく宮藤官九郎脚本)を連想させ、爆笑ものだった。

 腹違いの兄弟の跡目争いが勃発した一方、王道ラブコメ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)にも負けない恋の四角関係が展開。美しすぎる介護ヘルパー・さくら(戸田恵梨香)は自分を助けてくれた覆面レスラー“スーパー世阿弥マシン”が寿一だと見抜き、彼に「好き」と乙女ちっくに告白。しかし、寿三郎は自分の婚約者としてふるまってくれるさくらに未練があり、次男の踊介(永山絢斗)もさくらに「キュンだぜ!」と胸をときめかせコクることを決意していた。肝心の寿一の気持ちはというと、はっきりせず、「(恋愛よりも)俺はプロレスが好き」と無意識に口に出していたので、いったん保留というところ。さくらが弟妹たちに後妻業の女とバッシングされていた時点から彼女をかばってきた寿一なので、相思相愛になったように見えるのだが、その恋の行く先は後半のお楽しみというところだ。

 今回は折り返し地点ということで、ここでドラマの題材である能の演目について復習しておきたい。『俺の家の話』に加え、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK)でも徳川慶喜(草なぎ剛)が能を舞う場面が出てきたので、能という伝統芸能が気になってきた人も多いのではないだろうか。

 能は囃子(音楽)、謡(歌)、舞(ダンス)の三要素が一体となって物語を表現する歌劇で、いわば日本のオペラ。能面を着けて演じる仮面劇でもある。その歴史は歌舞伎より古く、室町時代に世阿弥がそれまで寺社で上演されてきた猿楽などを融合し大成させた。江戸時代には幕府の公式な演劇として認められ、保護された。徳川慶喜が能の稽古をし、人前に立って演じていたというのも史実である。能楽の公演は通常、幽玄をテーマにした能とコントのような狂言の両方が上演され、『俺の家の話』で寿一が「みなさんが能だと思っているの、だいたい狂言ですから」と言っていたように、一般人には区別がつきにくい。ドラマの監修をしているのは世阿弥から続く能の名門・観世流で、テレビや映画でも見かける野村萬斎や茂山宗彦(『おちょやん』)は狂言師だ。

 『俺の家の話』の第1話で観山家の面々が諳んじ、その後もたびたび出てくる「それは天人の羽衣とて」という謡は、能の代表的な演目「羽衣」の一部。三保の松原に降りて水浴びしていた天女が、掛けておいた羽衣を通りがかりの漁師に持っていかれそうになる。天女はその羽衣がないと飛んで天に帰れなくなると漁師に訴え、その場で一曲舞うことを条件に返してもらおうとする。観山家のポジションであるシテ(主人公)は天女を演じる。病に倒れ舞台に上がれなくなった寿三郎が能舞台を見つめる場面では、空に戻れなくなった天女とシンクロしてせつなかった。

 第2話では、寿一が復帰したことを門弟たちに認めてもらうため、基本中の基本である「高砂」を猛特訓。「たかさごや~」の節で有名なこの演目は、阿蘇の神主が旅の途中、高砂の浦(兵庫県高砂市)で老夫婦に“相生の松”の謂れを尋ねると、老夫婦は自分たちこそ松の精だと明かし姿を消すというもの。夫婦円満を表すおめでたい能で、昔はよく結婚式などで謡われたとか。シテ方は老夫婦の翁を演じる。寿一の息子、秀生(羽村仁成/ジャニーズJr.)が初めて教えてもらったのもこの「高砂」。第5話で、さくらに告白された寿一が動揺のあまりプロレスのリング上で踊ってしまったのも、この舞だったようだ。

 第3話は新しい演目が登場せず、第4話の公演では寿一と秀生が「小袖曽我」を踊ることに。鎌倉時代、父の仇討ちをした曽我兄弟の物語をシテ(兄)とツレ(弟)の相舞(あいまい)で見せる演目で、仇討ち決行前、兄弟が母親に会いに行き、勘当されていた弟のことを許してもらった後、「舞のかざしのその隙に」と謡い出し、2人そろって舞う。寿一は寿限無と血がつながっていると知った直後で、この演目を寿限無と共に練習した10代の頃を思い出し、「あのとき兄弟で舞っていたんだな」としんみりする。秀生の母であるユカ(平岩紙)が舞を見て涙ぐむというくだりも見事に演目とリンクしていた。

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