伝統芸能とホームドラマのマッチングが見事! 能の演目で『俺の家の話』前半5話を振り返る
第4話から第5話にかけて描かれたのは「道成寺」。これも代表的な出し物で、歌舞伎の「京鹿子娘道成寺」という演目にもなっている。紀州(和歌山県)道成寺の撞鐘供養の場に現われた白拍子が、妖しい舞で参加者一同を眠らせた隙に鐘の中に立てこもり、僧侶が祈祷をすると、鐘の中から蛇体になって現われる。能の中でも最も仕掛けの大きさと緊張度の強さがある曲で、ドラマでは寿限無が白拍子役で、寿一が“鐘後見”(かねこうけん)という鐘を落とす裏方の役割だった。大道具の鐘は重く、鐘後見は力の強い人しかなれないそうなので、レスラーの寿一にはぴったりだ。寿三郎を恨む寿限無が、男に捨てられた恨みから蛇と化す白拍子を修羅の形相で演じるのは迫力があった。
また、第5話では、さくらに告白された寿一が『うぬぼれ刑事』(2010年/TBS系)のようにドギマギし、顔が「怪士(あやかし)の面」のようになってしまったという場面が。他にも能面ではこれまで「スーパー世阿弥マシン」が着ける「万媚(まんび)」「般若(はんにゃ)」などが出てきている。
こうして1話ごとに振り返ってみると、ホームドラマとしての展開と能の演目がマッチングしていて、さすがクドカンと唸らされる。ただ、同じ手法で古典落語を用いた『タイガー&ドラゴン』(2005年/TBS系)、『いだてん』(2019年/NHK)に比べると、能がより古い芸能で謡の歌詞も現在の口語体とは違うため、分かりにくい。このドラマをじっくり味わうには、能の演目を調べながら、こちらから近づいていくというひと手間も必要になりそうだ。
2月26日放送の第6話は家族旅行編なので、新しい能の演目は出てこないかもしれないが、その代わりに寿一と寿限無、踊介、ゲストの阿部サダヲ演じる“たかっし”で「純烈」のようなボーカルグループを結成するようだ。“たかっし”は各地のスーパー銭湯をまわるムード歌謡グループ「潤 沢」のメンバーというふざけた設定だけで、期待大。アイドルグループTOKIOのメンバーでありボーカルの長瀬が、ドラマ後半戦の幕開けでどんな歌唱を見せてくれるのかも楽しみだ。
参考文献
・『これで眠くならない!能の名曲60選』(中村雅之著/誠文堂新光社)
・『能面の風姿』(岩田アキラ著/東方出版)
参考サイト
・能楽協会
■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。
■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS