『アノニマス』が描くのは単純な善悪ではない 香取慎吾演じる万丞が受け取った封筒の謎も

『アノニマス』が描くのは単純な善悪ではない

「私たちがやってることって、本当に正しいんでしょうか?」

 『アノニマス ~警視庁“指殺人”対策室~』(テレビ東京系)で描かれるのは、単純な善悪ではない。第3話で描かれたのは『17歳の殺人者』。衝動的にホームレスの男性を殺害した高校生・片山蓮(青木柚)の個人情報がネット上で晒されたことをきっかけに、「正しい」とは何かを視聴者に投げかける。

次世代に続く「正しい」を育てていく責任

 片山蓮はホームレスを殺した。だが、彼に罪の意識は全くない。それは父・遼太郎(戸田昌宏)が、日ごろから「ホームレスは人間以下だ」「人生の負け組だ」と教えてきたことが大きな要因だった。

 母・百合絵(紺野まひる)は、遼太郎の暴力を恐れるあまり、その教育を見て見ぬ振りをし、結果として蓮は「ホームレスを1人殺したくらいで」という価値観を持った人間に育ってしまったのだった。

 人の命を奪うという行為は、誰もが認める悪。しかし、社会にある「正しい」の概念は実に流動的だ。例えば、戦時下だったら? 大切な人が傷つけられそうになっていたら? 状況に応じて「正しい」の概念は変わるし、正義の味方もあてにならない、そんな時代もある。

 きっと「正しい」とは、黙っていてもそこにあるようなものではなく、その時代を生きる人たちによって育てていかなくてはならないものなのかもしれない。

 しかし、物事には因果関係があり、1つの場面を切り取って端的に善悪を決められるほどシンプルにできていない。蓮は殺人事件の加害者ではあるが、DVの被害者ともいえるのだから。

 この世界はいつだって、その「正しい」の輪郭を探し求めてさまよっているように思えてくる。刑事として誰よりも「正しい」社会をめざす万丞渉(香取慎吾)や碓氷咲良(関水渚)さえ、「本当に正しいのか?」と自問自答する日々だ。

 誰もが迷い、戸惑い、ときには間違えた罪と向き合いながらも、「正しく」生きようと諦めないこと。それが、大人に課された責任なのかもしれない。

 そして、SNSという新しい道具を手に入れた私たちにとって、その「正しい」使い方をみんなで育てているという状態だ。どこまでが「正しい」かを、大人たちも子どもも同じように、ぶつかりながら、転びながら、学んでいる。

 仮に、ネットを使っている誰もが、まだ善悪の区別がつかない未成年の子どものようなものだと考えたら……。いかに、その「正しい」があやふやかを想像しやすいのではないだろうか。

 だからこそ、この『アノニマス』では、改めて「正しい」を今から一緒に考えようと語りかけてくれる。特に、正しくないことに対して瞬間的に怒りを覚えて責め立てるのではなく「大切なことを教えてもらえなかった哀れな人」だと言ったシーンが印象的だった。

 次の世代の「正しい」を育てていくのは、今この瞬間を生きる私たち1人ひとり。やれることはすべてやる。主演を務める香取の熱のこもった眼差しから、このドラマが抱いている責任感がひしひしと伝わってくる。

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