TVアニメ版との違いに『シン・ゴジラ』との共通点も 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』を振り返る
使途と呼ばれる謎の敵と戦うために開発された人型決戦兵器エヴァンゲリオンと、そのパイロットたちの群像劇を描いた庵野秀明監督のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)。テレビアニメ終了から11年後に劇場公開された映画が『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(以下『序』)(2007年)だ。
「新劇場版」というタイトルが付いているのは、テレビアニメ放送終了直後の90年代に、テレビシリーズ終盤の流れを汲んだ劇場版が公開済みだからである。新劇場版はテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のリメイクではなく、リビルド(再構築)という触れ込みの新シリーズで、4部作が作られる計画が2006年に発表されていた。『序』は、その第1作にあたる。テレビアニメ版では高橋洋子が歌う主題歌「残酷な天使のテーゼ」が大ヒットしたが、『序』では宇多田ヒカル作詞・作曲・歌唱の新曲が用意され、新劇場版の完結編となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』まで4作品連続で宇多田が主題歌を担当することになった。
『序』の物語は、かつてのテレビアニメ版の第壱話から第六話までの内容を、大筋を変更することなく進行するが、テレビ版のフィルムをそのまま再編集した映画ではない。絵は新たに描き起こされて再撮影を施し、語られている内容は同じでも映像から受ける感触はテレビアニメのそれと違っている。テレビアニメ版の第壱話と、『序』の冒頭で主人公の碇シンジが初登場するシーンだけを見比べても、違いは明確に分かるはずだ。登場人物がテレビアニメ版と同じ台詞を発し、同じ芝居をしていても、映像(というか作画)はすべて新規のものになっている。シンジは、自分の上司かつ共同生活者となる葛城ミサト、エヴァンゲリオン零号機のパイロット綾波レイとの出会い、離れて暮らしていた父・碇ゲンドウとの再会などを経て、ライフル型兵器で強敵を狙撃するクライマックスへとドラマは流れていく。
前述の通り『序』の山場となる使途殲滅作戦は、テレビアニメ版の第六話「決戦、第3新東京市」のエピソードを用いている。ここで見どころになるのが、ミサトが立案するヤシマ作戦だ。射程圏内の相手に加粒子砲を放つため、接近することが難しい使途を長距離から狙撃すべく、ライフル型の陽電子砲をエヴァ初号機に装備させ、これで敵の心臓部のコアを撃ち抜く作戦である。陽電子砲の発射には大量のエネルギーを要するため、全国の電力会社と一般家庭のからの電力供給で停電状態の暗闇の中、緊迫したドラマが展開する。シンジのエヴァ初号機が放つ一撃に人々の命運がかかった一大作戦は、否が応にも観客のテンションを高める。