『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』とは何だったのか 庵野秀明監督による“繰り返しの物語”を振り返る

 TVアニメの放送が1995年に開始されてから、その圧倒的な内容で熱狂的なファンを増やし、社会現象と呼ばれるまでになった『新世紀エヴァンゲリオン』は、1997年の春、夏に2本の劇場版が公開され、主人公・碇シンジの物語は終焉を迎えた。それから10年後に公開が始まった、同じ主人公を迎えて描き直す新たな劇場版シリーズが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』だ。“エヴァ”の生みの親である庵野秀明監督自ら、制作スタジオ“カラー”を立ち上げ、ふたたびエヴァンゲリオンを世に送り出す企画をスタートさせたのだ。

 しかし、シリーズは当初の構想を大幅に逸脱したものとなった。度重なる製作の延期や、合間に監督の『シン・ゴジラ』(2016年)への参加などがあり、新たな劇場版エヴァは、もはや第1作の公開より13年の月日が流れ、現在もまだ完結していないという、ほとんど監督のライフワークといえるようなものになってしまっている。それでも本シリーズの完結編になるといわれている『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が、東宝、東映、カラーの3社で共同配給となるという事実は、エヴァという作品がいかに多くの観客に待ち望まれた作品なのかということを、如実に示しているといえよう。

映画『エヴァンゲリオン新劇場版』NHK公式サイトより

 そんな『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ3作品が、この度NHK総合テレビで3夜連続で放送される。ここでは、これまでに公開された新劇場版『序』、『破』、『Q』を振り返り、本シリーズが何だったのか、“エヴァ”とは何だったのかを、あらためてじっくりと考えてみたい。【※以降、TVシリーズ、旧劇場版、新劇場版のネタバレを含みます】

規格外のアニメ、TVシリーズと旧劇場版

 そのために、まず振り返らなければならないのは、TVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』と、“旧劇”と呼ばれるその劇場版である。最近、Netflixでこれら旧作が配信され、世界各国でふたたびエヴァに関心が集まった。あらためて鑑賞してみて思うのは、いま現在味わってみても、その面白さや革新性はずば抜けているということである。近年、アメリカの大作TVドラマシリーズが、映画作品を超えるようなスケール感と作り込み、斬新な演出などによって話題を集めているが、まさにいま、そのような作品の多くと並べて見ても遜色ないどころか、いまだに打ち勝てるほどの深さと広がりがあるのである。

 アニメーションに限らず、作品というものは画期的な部分がひとつでもあれば、話題になり得るし人々の記憶に残るものとなる。だが、こと“エヴァ”に関しては、そのような次元を超え、時代を象徴し飛び越える作品にまでなってしまっている。それは、これまでのアニメの常識を覆すような新しい表現が、ひとつのシリーズのなかにいくつも存在するからである。

 例えば、舞台となる第3新東京市という、建物や電線に囲まれた日本的な都市フィールドでの、エヴァンゲリオンと人類の敵“使徒”との対決。『ウルトラマン』などの実写特撮作品を意識した、細部にまでマニアックなこだわりが反映しつつ、庵野監督の信奉する実相寺昭雄監督や岡本喜八監督などを意識したアヴァンギャルドな演出や画面作り。さらには押井守監督作に見られる叙情的な都市の風景なども利用し、無数のカットによる素早い編集で見せていくという、庵野監督にしか表現できない極端な趣向は、圧倒的にユニークで斬新な魅力を作品に与えている。

 他にも漫画やアニメからは、『デビルマン』や『機動戦士ガンダム』、『伝説巨神イデオン』などからの影響も見られ、ある意味本シリーズは、日本のオタクカルチャーを、監督の偏愛によって総合したものとなっている。しかし、それが単なる“よく見る使い古された表現”の羅列であることを逃れているのは、それらを常に超えようとする、鮮烈にして強い意志が存在するからだろう。

 庵野監督は、かつて宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(1984年)のスタッフとして、巨神兵のシーンを担当していた。本作の主人公である碇シンジらが世界を救うために搭乗する「汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオン」は、まさにその巨神兵の姿を連想させるとともに、人間には制御しきれない強大かつミステリアスな力を持っているという共通点を引き継いでいる。

 さらにパイロットが試験管のような形状の「エントリープラグ」に乗り込み、それをエヴァの巨大な体内へと挿入し、まるで母親に胎児が守られているような状態になるという、グロテスクな機体の制御システム。くわえて、「福音」を意味する“Evangelion”という言葉が象徴するように、SF世界のなかに宗教的な知識の裏付けを与えることで、エヴァンゲリオンという兵器は、これまでのロボットアニメの常識を覆すほどの情報量がつめ込まれた存在となっているのだ。

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