マスク着用で通した『#リモラブ』が構築した新しい恋愛ドラマの形 ニューノーマルの先駆的作品に

マスク着用で通した『#リモラブ』が構築した新しい恋愛ドラマの形 ニューノーマルの先駆的作品に

 ドラマと関係ない個人的な体験だが、今年最も“素で”驚いたのは、10月頃、終電間近の新宿駅で若い男女がマスク越しにキスしているのを目撃したこと。改札前、彼が彼女をぎゅっと抱きしめて白い不織布マスクをしたまま唇を合わせていた。いえ、嘘じゃないんです。本当なんです。仕事帰りの私は「えええええー!」と思いっきり心の声で叫んだ。そして、「そこまでしてキスしたいのか? それで本当に感染防止になるのか。するならするでもう普通に濃厚接触すればよろしいのではないのか」というツッコミの嵐が脳内でしばらく収まらなかった。

 ちょうどその頃、『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)が放送スタート。わずか半年前、2020年4月から物語が始まり、波瑠が演じる大企業の産業医・美々(みみ)先生をはじめ、登場人物はみなマスクをしていて、顔が半分見えない。これは新しい!というかリアルというか無謀というか。緊急事態宣言が出るか出ないかの瀬戸際で、美々は社内でマスクとアルコールスプレーを持ち歩き、発熱した営業部社員を無理やり帰宅させる。その感染防止の徹底ぶりを見て気付いた。私が目撃したマスクキスの男女も、もしかしたらどちらかが医療従事者で「キスはしたいが、マスクは外せない!」と譲れない一線があったのかもしれない。『#リモラブ』はそんなふうに恋の新しい障害が生まれたさまを最も早くラブストーリーに採り入れた。

 脚本は『スカーレット』(NHK)の水橋文美江。既に6月には単発ドラマ『世界は3で出来ている』(フジテレビ系)でウィズコロナの物語を描いており、朝ドラという長丁場が終わったばかりで、さらに連ドラを書くことにしたのは、クリエイターとして大きく変わりつつある世界を記録したいという気持ちに駆られたのではないか。前述したように人物の顔がマスクで見えないのは役者の表情で語らせるドラマとしては決定的なマイナス要素なのだが、水橋と制作スタッフはリアリティを優先した。エンターテインメント業界のみならず、どのビジネスシーンでも、誰もやったことがないことをやるのが評価される条件であり、失敗のリスクもあるが成功の条件にもなってくる。また、主演の波瑠も、『あなたのことはそれほど』(TBS系)で不倫する役に挑戦したように、新しいことを面白がってやるタイプの俳優。顔がマスクで隠れてしまうのもマイナスとは考えなかったのだろう。

 番組発表当時、櫨山裕子プロデューサーは「コロナ(の感染拡大)が再燃したとしても、撮影を止めずにやれる形はないかと考えた結果がこのドラマ」だと語っている(引用:波瑠主演で地上波初の「コロナのある世界観を描く」ドラマ『リモラブ』10・14スタート…日テレ10月改編会見:スポーツ報知)。

 登場人物がマスクを着用すれば、実質的にキャストの感染防止にもなるわけで、苦肉の策であるが同時にリアリティも出せる。劇中では、美々の恋のお相手となる人事部の社員・青林(松下洸平)と同僚・我孫子(川栄李奈)のマスク越しのキスシーンがあったし、最終回のラストシーンも、美々と青林が唇を合わせる寸前でカメラが引いて遠景になっていた。

 「ウィズコロナ」「ニューノーマル」と呼ばれるこの時代に新しい恋が生まれたらどうするのか? デートは? キスは? その先は?という誰もが気になっていることを描いたこのドラマ。生真面目な性格の青林は濃厚接触を避け、それに不満を抱いた我孫子から別れを告げられてしまった。その後、付き合うことになった美々ともなかなか進展せず、スキンシップがないせいか、ちょっとしたことで気持ちがすれ違ってしまう。これも、ウィズコロナの恋の“あるある”かもしれない。結局、ここで描かれたのは、誰もが新型コロナウイルスに感染しているかもしれないというリスクを抱えながら、家族や恋人、友人や同僚とそのリスクを共有していくしかないという現実だ。

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