マスク着用で通した『#リモラブ』が構築した新しい恋愛ドラマの形 ニューノーマルの先駆的作品に
もうひとつ、テーマになっていたのは、そんな現実の中で人々が抱える精神的な不安。最終回で明かされたが、「健康管理室の独裁者」と呼ばれた美々は1000人超の社員を感染から守るため、産業医として大きなプレッシャーを感じていた。その頃、美々はSNSを通じて「檸檬」という人と頻繁にメッセージ交換をするようになり、緊急事態宣言が出て会社全体がリモートワークになってからも、「草モチ」というハンドルネームでテキストを送り合う。お気に入りの写真を送ったり、「どっちが好きか」という大喜利をやったり、仕事には関係なくたわいないおしゃべりをする。それがお互いにとって癒やしとなり、相手の年齢も外見も分からないままに恋に落ちたのだ。
現実で恋に落ちるより、ネットやSNSでのコミュニケーションが先行するというのは、1998年のヒット作『WITH LOVE』(フジテレビ系)を振り返るまでもなく、今に始まった設定ではないのだが、リモートワークの時代にはいっそうリアル。そういう恋のメリットとデメリットがうまく描かれていた。交際した男性を食べ物に例えていた美々はプライドが高く、実際、医師で美人というハイスペック。会社では青林を恋愛対象としては見ておらず「檸檬が青林というのだけは嫌だ」とまで言っていた。青林も美々を「医師の先生」として見ていたので、SNSで毎日会話していた草モチとは思えず、実際に素性を明かし付き合うことになっても、顔を合わせての会話はうまくいかない。いわば「会社での自分」と「SNSでの自分」が別人格で2人いるようなもの。それだけに終盤、2人がSNSを禁止してまで相互理解を深め、ついに青林が「(美々も草モチも)2人とも抱きしめに来たよ」とメッセージを送ってくるラストは、胸をときめかすエンディングとなった。
ただ、美々に思いを寄せる青林の同僚・五文字(間宮祥太朗)が嘘をついて檸檬になりすますのは、アカウントを乗っ取ったわけでもなく、メッセージ交換ですぐにバレるので、SNSのシステムをよく知る20代の男性ならありえない行動ではないかと思った。
キャストもみな好演。波瑠は部屋の中でのひとり芝居や、心の声を言いながらのコミカルな動きなど演劇的な要素もこなしてみせた。『スカーレット』で注目され、ヒロインの相手役としてはプライム帯の連続ドラマで初レギュラーとなった松下洸平は、ちょっとズレていて面倒くさい性格の青林をリアルにいそうな男性として体現。クールな性格の精神科医を演じた江口のりこと“昭和おやじ”的な営業マンを演じた渡辺大の上手さも光った。高橋優斗(ジャニーズJr.)と福地桃子が演じる若いカップルが交わす「かわいいぞ、このやろう」も最初はちょっと引いたが、次第にないと物足りなくなってしまった。
12月26日、東京都では新型コロナウイルスの変異株による感染が確認された。2021年にはワクチンの摂取も始まるというが、みんなそろそろ分かってきたのではないか。おそらく2021年もマスクなしの生活は送れない。元通りの世界はまだまだ戻ってこない。そんな状況下で恋愛ドラマを作っていくのなら『#リモラブ』は先駆的な作品としてひとつのひな形になりそうだ。
※高橋優斗の「高」ははしごだかが正式表記。
■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。
■配信情報
『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』
TVerにて最新話配信中
出演:波瑠、松下洸平、間宮祥太朗、川栄李奈、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、福地桃子、渡辺大、江口のりこ、及川光博
脚本:水橋文美江
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/remolove/
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