『Away』はなぜアニメーションとして画期的なのか VTuberにも通じる“即興性”を読み解く

『Away』はなぜ画期的な作品なのか

二次元キャラが即興するVTuber

 『Away』の3DCGは計算量を少なくし、リアルタイムレンダリングを可能にするためにローポリゴンであると先に書いた。現在の日本のポップカルチャーでこれと同じ発想で人気を博しているものがある。VTuberだ。

 VTuberはCGでモデリングしたキャラクターをモーションキャプチャによって、即座に動かすことで、YouTubeなどで実況ライブ配信をしているわけだが、当然レンダリングがリアルタイムではなくては生配信できない。だからこそ、VTuberのキャラクターモデルは、ある程度物理演算量を抑えたものになっているわけだ。

 VTuberという存在もある意味、アニメキャラクターに即興をさせているものだと言えるかもしれない。アニメ的なキャラクターがライブ配信で段取りせずに動いてしゃべる点が、一般的なアニメ作品とは異なるVTuberの魅力のひとつだろう。

 そのVTuberの仕組みをそのまま映画制作に適用したのが、今年9月に公開された、登場人物全てがVTuberの映画『白爪草』だ。本作はキャラクターの動きも、カメラワークも一般的なアニメ作品とはかなり異なる印象を与え、どう動くかわからないスリルがある。モーションキャプチャで人間が演じているわけだが、この映画では演者の動きをかなり多くそのまま採用していると思われる。

 通常の商業アニメーション作品でモーションキャプチャを用いても、その動きをそのまま採用せずに、アニメキャラクターの動きらしくするために動きの取捨選択をして整えていくわけだが、『白爪草』はコロナ禍で企画が立案され、低予算かつ短期間で製作しているためか、人体の即興的な動きもそのまま残っている。その荒々しさに『Away』とも共通する魅力が感じられる。

映画『白爪草』予告【2020年9月19日(土)公開】

 モーションキャプチャはデジタル時代の新技術だが、アニメーションの古い手法でも即興的な動きを実現させることは可能だ。実写映像をトレースして描くロトスコープは、モーションキャプチャと同じことをアナログで行っているものと言える。

 ロトスコープを好んで用いるアニメーション作家の久野遥子は、筆者のインタビューでロトスコープの魅力についてこう語った(参照:岩井澤健治×久野遥子が語り合う、『音楽』に詰まったロトスコープアニメの可能性)。

「映画には偶然による奇跡ってあると思うんです。商業アニメの作り方だとそれが起きにくいとは思いますね。でも、ロトスコープはアニメーションでアクシデントを起こすために有効だと思います。『Spread』(久野氏が作ったMV)で赤ちゃんを撮ったのはそのためです。赤ちゃんは段取り通りに動きませんから」

 従来のアニメーションは、美しく計算された職人芸の世界だった。その職人芸を堪能する喜びが失われることはないが、アニメーションが即興という新たな武器を得た時、従来の職人的な美しさや完成度とは異なる、不完全なものにも魅力が加わることになるのではないか。それはカサヴェテスやヌーヴェルバーグが、実写映画の世界にもたらしたような革命なのかもしれない。『Away』やVTuber、久野遥子といった存在は後年、その先鞭をつけた存在として記憶されることになる可能性を秘めている。

引用資料

※1『映画を撮りながら考えたこと』、P126、是枝裕和、ミシマ社
※2『映画を撮りながら考えたこと』、P127、是枝裕和、ミシマ社
※3『ジョン・カサヴェテスは語る』、P42、レイ・カーニー編、ビターズ・エ
ンド発行、幻冬舎発売
※4『ジョン・カサヴェテスは語る』、P45、レイ・カーニー編、ビターズ・エ
ンド発行、幻冬舎発売

参考資料

アニメーションが手にした新たな「跳躍」 2019年のアヌシーから見えてきたもの(前編)注目されつつあるゲームとアニメーションの間
『メカスの映画日記 ―ニュー・アメリカン・シネマの起源 1959‐1971』|かみのたね
バーチャルモーションキャプチャーを使ってVtuberになる方法|STYLY
「東アジア文化都市 2019豊島」プロモーション映像・久野遥子監督インタヴュー|tampen.jp
キャラモデリングを“知ろう”|東京工業大学デジタル創作同好会traP
リアルタイム レンダリング|建築設計者向けソフトウェア | オートデスク
ポリゴンとは|3DCGデザイナー専攻|デジタルハリウッドの専門スクール(学校)
・『映画に目が眩んで』 蓮実重彦著(中央公論社刊)
・『シネマトグラフ覚書―映画監督のノート』 ロベール・ブレッソン著、松浦
寿輝訳(筑摩書房刊)
・『エクリヲ vol.12』「“異物”としての3DCG」所収、「アニメーションの歴史か
らみたVTuber」田中大裕(エクリヲ編集部発行)

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『Away』
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
製作・監督・編集・音楽:ギンツ・ジルバロディス
配給:キングレコード
配給協力:エスピーオー
後援:駐日ラトビア共和国大使館
2019年/ラトビア/カラー/原題:Away/シネマスコープ/81分/5.1ch
(c)2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.
公式サイト:away-movie.jp
公式Twitter:@away_movie

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