エリック・ロメール監督はつんく♂だった!? 小川紗良が語る、その独自の手腕と同時代性

小川紗良が語る、エリック・ロメールの魅力

「映画って、やっぱり残って伝わっていく」

ーー(笑)。ちなみに、小川さんの同年代の方々は、ロメールの映画を観たりするのでしょうか? そもそも、ロメールという存在は、若い人たちのあいだで、どれくらい知られているのかなと。

小川:私のまわりの人たち、同世代の若い映画監督とかは、ロメールが好きっていう人が多いような気がします。最近『アボカドの固さ』という映画が公開された、私の大学の先輩でもある城真也監督とか。長回しの会話のシーンが多かったり、ストーリーも、傍から見ると、ちょっと滑稽だったりする恋愛模様を、面白おかしく描いている映画なので。パンフレットを読んだら、実際ロメールの『緑の光線』を参考にしたと書いてありました。だから、そういう意味でも、ちょっと“流れ”みたいなものが、今、きているのかもしれないですよね。

ーーほほう、“流れ”というと?

小川:すごくミニマムな世界を描いた映画なんだけど、登場人物にとってはそれがすごい切実な世界だったりするっていう。そういうある意味、ロメール的とも言えるような映画が、今、求められているのかなという気はします。今泉力哉監督の作品も、そういう感じがします。

ーーああ、今泉監督の映画も、ちょっとロメールっぽいところがありますよね。『愛がなんだ』は、若い世代にも支持されたようですし……。なぜ今、若い人たちに、そういう映画が求められているのでしょう?

小川:うーん、どうなんでしょう。でも、最初に言ったように、もしかしたらみんな、大きくてわかりやすい映画、いわゆる大作映画みたいなものに、ちょっと飽きてきているところがあるのかもしれないですよね。そういうものを観ることに、ちょっと疲れているというか。そうじゃなくて、もっと何でもない、他愛ない恋愛の話とかを観たくなったり。

ーーなるほど。アニメの世界において、いわゆる“セカイ系”から“日常系”に変化していったように、実写映画の分野でも、そういうことが起こっているのでしょうか?

小川:ただ、ロメールの映画を観ていると、その物語自体は明らかにすごい小さな世界の話なんですけど、そこで取り交わされる台詞を聴いていると、「世界の中心にいるつもりなの?」とか「世界の終わりだわ!」といった風に、“世界”という言葉が、意外と隅々に出てくるような印象もあって。すごく小さい内輪の話なのに、登場人物たちは、常に自分の“世界”と対峙しているというか。大きな目で見た“世界”というよりも、ひとりの人間のなかに深く広がっている“世界”のほうを掘り下げている作品という気はするんですよね。

ーーそこはある意味、フランス的な個人主義の表れなのかもしれないですね。

小川:そうですね。今、私自身が、そういう外側の世界より、自分の内側の世界みたいなものに、関心があるのかもしれないです。『緑の光線』を観ていて、ちょっと今の感じに近いのかもしれないなと思ったところがあって。あの映画の主人公も、何をやってもうまくいかず、いろいろ思い詰めてしまった若者という感じがするんですが、その閉塞感がどこか今、コロナ禍にある日本の若者たちのムードに、近いような感じがしたんですよね。もちろん、全然時代も違うし、国も違う話なんですけど、あの映画も不思議と等身大で観られるようなところがあって……。

ーーなるほど。自分が生まれる前に作られた映画を等身大で観られるのって、実はものすごいことですよね。

小川:そうですよね。映画って、やっぱり残って伝わっていくものじゃないですか。それこそ、映画というメディアの何よりの特色だと思います。ごく小さな個人の話なのに、普遍性のようなものが生まれて、時代や文化を超えて伝わっていくことは、やっぱり映画のすごく素敵なところだと思うんですよね。

――なるほど。ちなみに小川さんは、ザ・シネマメンバーズのような、数は少ないけれど、厳選された映画がラインナップされている映画配信サイトについて、どのように思いますか?

小川:すごくいいと思います。シネコンなどで映画のスケジュールを見るときもそうなんですけど、選択肢がありすぎて、ちょっと困るときってあるじゃないですか。そういうときに、上映している映画の数は少なくても、その一本一本のセレクションを信頼している名画座に行くことがよくあるんです。それと同じように、配信の世界でも、作品がどれだけあるかよりも、厳選されたものが並んでいる方がいいっていう人は、一定数いるんじゃないかと思うんです。そういう方たちにとっては、ありがたいサービスですよね。

――厳選された映画が並んでいるといっても、「まずはこれを観るべき!」みたいな圧が強いレコメンドではなく、その中のどれから観るのかは、視聴者が自由に選べるわけで……。

小川:そうですね。良い作品をたくさんが用意されていて「あとはご自由に」という気軽さが嬉しいですね。

>配信系ミニシアター ザ・シネマメンバーズはこちら

■配信情報
エリック・ロメール監督作9作
『満月の夜』
『パリのランデブー』
『飛行士の妻』
『緑の光線』
『レネットとミラベル/四つの冒険』
『友だちの恋人』
『木と市長と文化会館』
『美しき結婚』
『海辺のポーリーヌ』
ザ・シネマメンバーズにて配信中

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