エリック・ロメール監督はつんく♂だった!? 小川紗良が語る、その独自の手腕と同時代性

小川紗良が語る、エリック・ロメールの魅力

「ロメールの描く女性は、すごく自然」

――パッと見、ヌーベルバーグならではの手作り感覚で、非常にラフに撮っているようにも見えますが、その“仕掛け”みたいなものは、周到にできていると。

小川:そうですね。やっぱり色や音を、すごく計算しているんだろうなと。だけど、その一方で……今回、連続して8本観て思ったんですが、ロメールの映画って、登場人物たちがすごくバッタリ出会うじゃないですか。『友だちの恋人』でも、一日に2、3回続けて同じ人にバッタリ会ったりして。自分で脚本を書くときって、人と人が会うための理由をどうにかして探そうとしてしまうんですが、確かに何の理由もなしにバッタリ出会ってしまうことって実際あるし、それこそ映画的だなと感じました。今まで映画を観たり作ったりしてきた中で、出来上がった固定観念みたいなものが、パッと取り払われるような瞬間が、ロメールの映画にはたくさんあったような気がします。

「レネットとミラベル/四つの冒険」(c)1985 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

ーーいろいろ周到でありながら、ときにはかなり大胆であるという。

小川:そう、『レネットとミラベル』の2人も、いちばん最初の出会いは、すごい偶然じゃないですか。ミラベルの乗っていた自転車がパンクして立ち往生していたら、たまたまレネットが通りかかるっていう。日本のアニメでも、女子高生がパンをかじりながら走っていて、角で男の子にぶつかるみたいなものがテンプレートとしてありますが、ロメールの映画って、意外とそういうことがたくさん起きているなと思って(笑)。でも、全然違和感なく観られるんですよね。そのあとの展開次第で、そういうことを普通に受け入れることができるんです。あと、ロメールの映画は、音楽の使い方も印象的ですよね。よくよく考えたら結構ドロドロした恋愛の話なのに、最初にめちゃめちゃポップでピコピコした音楽が流れることで、「これから始まるのは喜劇なんです」っていうことが示されていたりして。

ーー『美しき結婚』(1982年)ですね(笑)。

小川:そう(笑)。あと、『パリのランデブー』(1995年)でも、それぞれの話の間に、アコーディオンを持った人たちが、すごく陽気に歌うシーンが挟まれていることで喜劇みたいになっていて。もちろん、そこで描き出される人たちは、ああでもない、こうでもないと、重々しく悩んでいたりするんですが、それを傍から見ていたら、やっぱり可笑しくなってしまう。そういう映画全体の骨組みを音楽で作っている感じがして、それもすごい面白かったですね。

ーー今回のラインナップの多くは「喜劇と格言劇」シリーズの映画で……それらはみな、映画の冒頭に「言葉多きものは災いの元」といったように、ある「格言」が提示されるじゃないですか。

小川:あれも、すごく面白いですよね。映画を観ているうちに忘れちゃったりするんですけど(笑)。でも、最初にその言葉を見ながら、「どういうことだろう?」って一回考えて、それから物語を観始めています。

ーーあと、ロメールと言えばやはり会話のシーンが有名ですが、会話のシーンについては、どうでしたか? ほかの映画と比べると、かなり長いとは思いますが。

小川:本当に長いですよね(笑)。でも、何故か観ていられるんですよね。私、カフェとかで作業しているときに、となりの席に座っている女子高生たちの会話をずっと聞いているのがすごく好きなんですけど、どこかそれと同じような感覚があるんです(笑)。たまたま居合わせた人の会話を、ただずっと聴いている、その時間がまた心地良いというか、癒しになるんですよね。

ーー何かを説明するための会話ではなく、グダグダも含めてすごくリアルな感じがする会話だっていう。

小川:意味もないものこそ、意外と大事というか。今って、無駄がどんどん省かれているような時代でもあるじゃないですか。でもやっぱり、映画は無駄なものが入っていれば入っているほど私は好きというか、世界がちゃんとその作品にある感じがするんです。だから、そういう無駄話を聞くために観ているようなところもあったかもしれないです。意味がなかったり、多少分からなかったりしても、たまに笑えるぐらいの感じが、ちょうどいいというか。

ーーあと、ロメールの映画の特徴として、とにかく女性が主人公の映画が多いという。それについては、いかがでしたか?

小川:そうですね。毎回毎回違うヒロインが出てくるんですけど、みんなひとりの女性として、ちゃんと人格があるというか……それって、当たり前のようでいて、案外そうでもない気がするんです。そう、これはちょっと全然違う話になっちゃうかもしれないんですけど、私、ハロー!プロジェクトがすごく好きなんですね。

ーーはい(笑)。

小川:つんく♂さんの書く歌詞の世界が好きで。つんく♂さんの描く女の子って、いわゆるめんどくさい女の子というか、わがままだったり、どうしようもなくウジウジしていたりするんですが、だからこそものすごくリアルだなって私は思うんですよね。ちょっとした生活の一場面に共感できるというか。なので、ロメールって、どこかつんく♂さんみたいだなっていうのを、実は映画を観ながらずっと思っていて。ロメールの映画に登場する女の子たちって、つんく♂さんが描く女の子に、ちょっと近いところがあるんですよね。強いんだか弱いんだかわからない感じが似ているなと思って。ひとりのハロオタの視点として、そんなふうに思いながら実は観ていました(笑)。

ーー(笑)。でも、何となくわかるような気もします。ロメールの映画って、男女が揉めていても、案外男の立場に寄らないところがあるじゃないですか。

小川:そうなんですよ。すごく女性の視点に立っているんですよね。だからと言って、女性を変に神格化しているわけでもない。女の子のめんどくさいところや泥臭さみたいなものも、ちゃんと描いている。だから、すごく安心して観られるんです。男性が描く女性って、やっぱりどこか観にくいところがあったりするんですが、ロメールの描く女性は、すごく自然なんですよね。だから共感して、主人公と自分が重なっていくにも思えて……。

ーーわりとみんな、躊躇なく浮気とか不倫とかしていますが(笑)。

小川:あ、そうですね(笑)。でも、そういう自由奔放さみたいなものも、変に神格化していない感じがあるというか。人としてちゃんと描いている感じがするんですよね。むかつくシーンがあっても、登場人物の女性たちが、ちゃんとケリをつけてくれるので、そこにスカッとしたり。そこがまた、つんく♂さんの歌詞っぽいなって思ったりするんですけど(笑)。

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