『半沢直樹』が問いかけたバンカーとしての正義 最終話は7年越しの大団円へ

『半沢直樹』最終話は7年越しの大団円へ

 もう1人、最終話で光が当たったのが中野渡だ。鋭い眼光で東京中央銀行の舵取りを一身に担ってきた中野渡が、本当のところ何を考えていたかは、これまであまり明らかにされてこなかった。前作最終話での半沢の出向と大和田を役員にとどめた理由、行内融和に腐心してきたこと。中野渡を突き動かしてきたのは、先輩の牧野(山本亨)を失った後悔と、後に続く若者に正しい道を示すという思いだった。

 「いま自分が正しいと信じる選択をしなければならない」と語る中野渡の信念は、痛みを他人に押し付けず、バンカーとしての責任を果たそうとする半沢と深いところで響き合っている。半沢に向けられた「君はいずれ頭取になる男だ」という言葉は、中野渡の偽らざる思いだろう。

 「バンカーとしての正義」ということで言えば、大和田が半沢のことをどう考えていたかも興味深かった。半沢ネジへの融資を打ち切り、父・慎之助(笑福亭鶴瓶)が自殺する原因を作った大和田は、その判断について「間違ったことはしていない」と言い切る。当然、その姿勢は半沢と衝突するが、大和田は「お前の正義を貫くためには上に立つしかない」と半沢に告げる。

 中野渡と大和田は、それぞれ異なる理由から、半沢に東京中央銀行の未来を託す。退職届の紙吹雪を降らし、「沈没」「死んでも嫌だね!」「おしまいです」とバズワードを言い直して去った大和田。半沢のカウンターとして花道を飾った大和田のその後は、ぜひスピンオフでお願いしたい。

 前作から7年。最後は全編を通じた伏線も回収され、物語の壮大な円環が閉じた。『半沢直樹』が残した一つのメッセージに、ツケは払わなければならないということがある。「倍返し」も元々は契約の公平性を保つ制度であり、誰も過去の所業からは逃れられない。半沢も例外ではなく、旧T(東京第一銀行)の不正融資を公表した後には、信用失墜した銀行の再建が待ち受けている。結局のところ、仕事をするということは過去と誠実に向き合うことなのかもしれず、それが未来につながる最短距離なのだと教えてくれる。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■配信情報
日曜劇場『半沢直樹』
Paraviにて全話配信中
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS

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