『カネ恋』で発揮される松岡茉優の真骨頂 “時間の流れ”を表現するその佇まいを追う

『カネ恋』で発揮される松岡茉優の真骨頂

 いっそのこと、松岡茉優の演技のすごさとは、その“佇まいの揺れ”をうまく演じきっているところだと断言してしまってもいいかもしれない。天才少女として世に出たピアニストが母の死を乗り越えて復活する『蜜蜂と遠雷』の栄伝亜夜は、まさしくその“揺れ”が音楽や他のピアニストたちと共振していく時間を描いた映画だった。

 『劇場』もそうだっただろう。主人公・永田(山崎賢人)が道端で出会い、声をかけずにはいられなかった松岡茉優演じる沙希という女性。映画におけるほとんどの時間を山崎賢人と松岡茉優の二人芝居に費やした『劇場』では、7年という時のなかで“全く変わらない永田”と“徐々に変わりゆく沙希”を鮮明に映し出した。映画を観ている間は具体的な年号の知らせもないので7年も時が過ぎているなんてことに私たちは気づかないのだけれど、本作における“時間の流れ”というのは、沙希の佇まいの揺れにこそ集約されていた。

『劇場』(c)2020「劇場」製作委員会

 沙希を荷台に乗せながら、永田がまるで時を遡るみたいに、置いてきたものを拾いにいくように自転車を左方向に進ませる長回しのシークエンスは、『劇場』という映画の最も素晴らしい場面であり、同時に松岡茉優が特異な俳優であることを証明した場面でもある。時間は巻き戻ることがない。確かに7年は過ぎている。そのことにようやく気づき、言いそびれていたことを伝える永田。その言葉を聞きながら、徐々に顔を歪ませ、涙する沙希。このシーンまでに散々、沙希の表情や佇まいの変化でもって時間の無情なまでの流れを描いているから、ここでも、時は戻らない=この2人はどうしたってやり直すことはできないという結論が、沙希の崩れる表情によって私たちには伝わってしまう。

 松岡茉優が体現する佇まいの揺れは、映画やドラマにとって最も重要とも言える“時間の流れ”を表出する。話は戻って『カネ恋』でも、その姿は健在だ。彼女は正反対の性格をもつ慶太と接することで、どう影響を及ぼし合い、揺れていくのか。映画やドラマを愛する私たちには、三浦春馬さんの最後のドラマ出演であることもどうしても意識してしまう本作。玲子と慶太、そして彼らを演じる役者たちによって、ドラマ内には確かに豊かな時間が流れていたことを、強く刻み込んでくれるはずである。

 俳優の<優>の字(意味は「面を付けて舞う人、役者、楽人」とされる)が名前に入った生粋の役者である松岡茉優の、今後の演技に刮目したい。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

■原航平
ライター/編集者。1995年生まれ。「リアルサウンド」「クイック・ジャパン」などで、映画やドラマ、YouTubeの記事を執筆。Twitterブログ

■放送情報
火曜ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』
TBS系にて、毎週火曜22:00~ 22:57放送
出演:松岡茉優、三浦春馬、三浦翔平、北村匠海、星蘭ひとみ(宝塚歌劇団)、大友花恋、稲田直樹(アインシュタイン)、中村里帆、八木優、河井ゆずる(アインシュタイン)、キムラ緑子、ファーストサマーウイカ、池田成志、南果歩、草刈正雄
ゲスト出演:梶裕貴、岡本莉音、トミー(水溜りボンド)、登坂淳一
脚本:大島里美
演出:平野俊一、木村ひさし
プロデュース:東仲恵吾
主題歌:Mr.Children「turn over?」(トイズファクトリー)
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/KANEKOI_tbs/
公式Twitter:https://twitter.com/kanekoi_tbs



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