『カネ恋』は自分自身を愛するきっかけとなる 三浦春馬さんの思いを受けとり、つなげていくために

『カネ恋』は自分自身を愛するきっかけとなる

「……良き」

 甘い茶菓子を一口頬張り、丁寧に淹れたほうじ茶で流し込んだときのような幸福感。思わず鑑賞後に目を閉じ、少し口角を上げて、ほっこりとした気分になるドラマが生まれた。松岡茉優主演の火曜ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)のことだ。

 脚本家・大島里美によるオリジナル作品で、主人公の九鬼玲子(松岡茉優)は“清貧女子”。文字通り、清く、貧しく暮らすヒロインだ。大里は、同じTBSドラマで『凪のお暇』を手がけたことでも、記憶に新しい。凪の生活も、誰かと比べてアップアップしていた毎日を手放し、自分のお気に入りを集めたスモールライフだった。私たちは今、多くのモノに囲まれることよりも、「これだけあれば幸せ」と満たされることを求めているのかもしれない。

 玲子の部屋は和室で、驚くほどモノが少ない。とても現代ラブコメのヒロインとは思えない。むしろ、時代劇で隠居した武士が住んでいそうな雰囲気だ。モノにはすべて定位置が決まっており、新しいモノを購入するときもしっかり吟味して、「お迎えする」という意識だ。

 大切に迎えたものを長く使う。それは日本語の「もったいない」が持つ感覚よりも、ずっと愛情を感じるスタンス。「安いから買っちゃった」「しかも今なら1個買ったらもう1個ついてくる!」と、テレビショッピングで衝動買いをする母親・サチ(南果歩)との対象的な価値観も面白い。玲子の価値観は、親や周囲の誰かから吹き込まれたものではなさそうだ。

 よく見ると、窓辺には『方丈記』が飾られている。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず…」で始まる『方丈記』は、鎌倉時代初期に鴨長明が記した古典日本三大随筆の一つ。貴族のから武士の時代へ。さらに大地震や大火災が続き、世の中の価値観が大きく変わる中で、多くの人が無常観を抱かずにはいられないタイミングに生まれた随筆だ。

 戦争に災害と、何があるかわからない日々に大金をかけて住まいを構え、いつ失われるかと神経をすり減らすよりも、質素な住まいでも穏やかに暮らせるほうがいい……と鴨長明自身も、必要最低限のモノだけを所有する暮らしをしていたという。心静かに暮らしたいという玲子にとって、バイブルのような存在になっているのだろう。

 そんな玲子の生活を一変させる出来事が起こる。それが、勤務先であるおもちゃ会社の社長息子・猿渡慶太(三浦春馬)との出会いだ。「俺が消費するから日本経済回ってるんでしょうが」と豪語する慶太は、まさに“浪費男子”。何にどのくらいお金を使ったか全く関心がない慶太は、お気に入りのモノを直して大事に使う玲子に「買った方が早くない?」と言ってしまうほど、正反対な価値観を持つ。

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