『カネ恋』は自分自身を愛するきっかけとなる 三浦春馬さんの思いを受けとり、つなげていくために

『カネ恋』は自分自身を愛するきっかけとなる

 “清貧”と“浪費”。一概にどちらが正しいというのは、言い難い。お金をしっかりと管理していくのも大切だが、「世捨て人」と囁かれるのも寂しいし、経済を回すのも大切だが「結婚したら人生崩壊」なんて振られるのも悲しい。お金の使い方次第では、人間関係にほころびが出るということ。だが、そんな生きることに直結しているお金であるにも関わらず、人に相談しにくく、1人で抱え込みがちになってしまうこと。そんな人生における大切なことを、ライトなラブコメタッチで教えてくれるドラマに仕上がっている。

 劇中では、営業エリートの板垣純(北村匠海)が、親の経営難や自身の奨学金返済などが重なって、思い悩む姿が描かれた。「お金に困っている」とは、とても言えない。自分でなんとかしなければとどんどん追い詰められる板垣は、新幹線チケットを経費で購入し、金券ショップに売り、実際には深夜バスを利用して、その差額を手にしていた。寝る間も惜しんでデータ入力の副業をして、心身ともに疲労困憊な日々を送っていた。

 きっとこんなふうに「人には言えない」とお金に苦しんでいる人は少なくない。相談できない孤独が、さらに人を追い詰める。だが、どうか1人で悩まないでほしい。玲子が「お金のために板垣さん自身がボロボロになってしまっては本末転倒ではないでしょうか」と語りかけたように、お金は人が便利に暮らすために作られたのであって、お金に人生を奪われるのは本末転倒なのだから。正しくお金と向き合う方法を、一緒に考えてくれる人は必ずいる。

 玲子が「ほころび」と呼ぶものは、取れかけのボタンに象徴された、自分を大事にしていないことそのものを言っているように感じる。何がどのくらいあれば満足するのかという、自分自身の価値観を肯定すること。モノに愛着を持つことで、それを身にまとったり使ったりする自分を愛でるということ。お金を好きになって仲良くするということは、つまり自己肯定感を高める、最も身近な手段といえるかもしれない。

 『方丈記』が生まれた鎌倉初期と同じように、2020年も価値観が一変するようなことが続いている。世の中は変化を続け、常にアップデートしていかなくてはならない。それでも、自分が自分であるということは変わらない。ならば、自分のことは誰よりも自分が「愛着」を持っていようではないか。それが、きっと誰かへの愛にも繋がっているはずだから。このドラマは、自分の人生を愛するきっかけになり、窓辺に飾られる作品になるかもしれない。

※追記

 7月18日、猿渡慶太役の三浦春馬さんが永眠されました。この作品の取材でお会いしたとき、限られた時間でのインタビューにバタバタしてしまったにも関わらず、にこやかに丁寧にお話してくださる姿が忘れられません。

 このドラマが、三浦春馬さんのラストドラマであることは事実。ですが、三浦さんのエンターテイナーとしての気持ちを汲むと、そこにばかりとらわれず、むしろこれまで彼が出演してきた作品と同様に、まっすぐ楽しんだほうが彼は喜んでくれるのではないかなと思っています。

 第1話を観て、三浦春馬さんでなければ慶太は考えられなかったのだと感じることができました。脚本を変更し、一つの作品として完成までねばり、オンエアまでこぎ着けてくださった制作スタッフの皆さんへ感謝の気持ちでいっぱいです。三浦春馬さんが愛着を持ち、大切にしてきたエンターテインメントを受け取り、つなげていく。それが今、私たちにできることだと信じて。改めて、心から哀悼の意を捧げます。

■放送情報
火曜ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』
TBS系にて、毎週火曜22:00~ 22:57放送
出演:松岡茉優、三浦春馬、三浦翔平、北村匠海、星蘭ひとみ(宝塚歌劇団)、大友花恋、稲田直樹(アインシュタイン)、中村里帆、八木優、河井ゆずる(アインシュタイン)、キムラ緑子、ファーストサマーウイカ、池田成志、南果歩、草刈正雄
ゲスト出演:梶裕貴、岡本莉音、トミー(水溜りボンド)、登坂淳一
脚本:大島里美
演出:平野俊一、木村ひさし
プロデュース:東仲恵吾
主題歌:Mr.Children「turn over?」(トイズファクトリー)
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/KANEKOI_tbs/
公式Twitter:https://twitter.com/kanekoi_tbs

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる