『わたナギ』特別編が示したそれぞれの結婚のかたち 心のライフワークバランスを考える後日談に

『わたナギ』が示したそれぞれの結婚のかたち

 “私の家政夫”から、“私の夫”へ。メイ(多部未華子)とナギサさん(大森南朋)の結婚で幕を下ろした火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)。その1カ月後の様子が、2時間スペシャルの特別編で描かれた。

 「メイさんが好きです」「私も好きです」と想いを伝え合い、ジャンピングハグで結ばれた2人。さぞかしラブラブな新婚生活を送っているのではと思いきや、聞こえてきたのは、マンションの廊下にまで響く夫婦喧嘩の声。どうやらメイが寝坊をしてしまったようなのだ。

 スマホの爆音アラームで起きているメイ。そんなメイに、一緒に暮らし始めたナギサさんは“音量を少し抑えてほしい”と頼む。その理由は、心臓になるべく負担をかけないため。最終回でも明かされたように、ナギサさんは人間ドッグで心電図の再検査が必要になっていた身。さらにメイとの22歳という年の差を考えて、1日でも長く健康でいるために気にしているのだろう。しかし、メイは音量を下げたアラームで起きることができなかった……ということらしい。

 自分の生活ペースを乱されたという苛立ちから、メイは「ナギサさんのせいです」と声を荒げる。これは完全な八つ当たり。一方で、ナギサさんの返答も、まさに売り言葉に買い言葉で、どんどんヒートアップしていく。いつもメイの靴下が裏返っていることやら、お風呂上がりに換気扇を回さないことやら、ペットボトルをすすいでラベルを剥がさないことやら。次々と出てくるナギサさんの改善要求。それに対して、メイも「ナギサさんのいびきがうるさい」と反論し、心の中で「やさしくなくなった」と不満を漏らすのだった。

 生活を共にしたことで、こうした喧嘩が生まれるのはよく聞く話。だが、2人の場合は初めてお互いの生活ぶりを見せ合う夫婦とは状況が違う。ナギサさんが家政夫としてメイの家に出入りしたころから、きっとメイの靴下はずっと裏返っていただろうし、仕事が忙しい時期には寝食を忘れて没頭するのも見てきた。それにも関わらず、2人のうっぷんは溜まってしまった。

 「ナギサさんがやさしかったのはビジネスモードだったの?」とメイは頭を抱えるが、全くその通りだ。仕事だから靴下がどんな状態であっても、ナギサさんは何の文句も言わなかった。もちろん家庭が仕事のようにできたらいいのだが、人間そんなに器用にはいかない。家族となれば「より効率的になるように協力してほしい」という気持ちが出てくる。「気持ちをわかってほしい」という甘えも。そして「ここが変われば、もっと愛しいのに」というエゴも出てくる。

 だが、モードが変わったのは、ナギサさんだけではない。メイだって、ナギサさんを“雇っている”モードだったはずだ。そして、仕事はバリバリとこなすのに、家事は一切ダメなメイこそ、ビジネスとプライベートでモードが異なることに、理解があって然るべきはずなのに、ナギサさんのそれは許すことができない。“夫”に“家政夫”のモードを求めるのは、実にナンセンス。それは、性別が逆転しても同じ話だ。

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