エル・ファニングと映画との蜜月はいかにして生まれた? 出演作に垣間見える独自のセンス

エル・ファニングと映画との蜜月

若すぎるということへの抵抗

 エル・ファニングが『幸せへのキセキ』(キャメロン・クロウ監督/2011年)で、スカーレット・ヨハンソンと共演したことは多くの示唆に富んでいる。この二人の女優には多くの共通点がある。天才子役としてキャリアをスタートさせたこと。ターニングポイントとなったのが、ソフィア・コッポラの作品だということ。そして若すぎるということに抵抗してきたことだ。『ロスト・イン・トランスレーション』(ソフィア・コッポラ監督/2003年)を撮影したとき、スカーレット・ヨハンソンはまだ17歳だった。エル・ファニングが『マッド・ガンズ』(ジェイク・パルトロー監督/2014年)で妊婦を演じたときは、まだ14歳だった。

 スカーレット・ヨハンソンによるエル・ファニングへの興味深いインタビューの中で、彼女たちはお互いに「キャラクターを演じる際に年齢は関係ない」と言い切っている。実年齢より上の役を演じてきたエル・ファニングにとって、その役をこなすには若すぎる、という意見は、むしろ抵抗すべき対象なのだ。『マッド・ガンズ』の中で、エル・ファニングは少女であると同時に妊婦である役どころを、生来の天使的な身振りのまま平然とこなしている。そこに一切の矛盾は見当たらない。

『ガルヴェストン』(c)2018 EMERALD SHORES LLC – ALL RIGHTS RESERVED

 そしてメラニー・ロランの監督作品『ガルヴェストン』(2018年)では、ついに母親役を演じている。『ガルヴェストン』は、エル・ファニングが身を投じてきた世界の周縁、世界のざらつきを描くロードムービーであり、『SOMEWHERE』に向けられた現在のエル・ファニングからの返答ともいえる作品だ。

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(c)2019 Gravier Productions, Inc.

 『SOMEWHERE』以前に辿るなら、かつて『帰らない日々』(テリー・ジョージ監督/2006年)で、相手との入ってはいけない間合いに入ってしまいトラブル=物語を引き起こすホアキン・フェニックスお得意の演技を緩和する役回りを演じていた少女が、ホアキン・フェニックスの無邪気さとはまったく別の無邪気さで主体的に物語を動かす方向に向かっている。『パーティーで女の子に話しかけるには』(ジョン・キャメロン・ミッチェル監督/2017年)や『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(ウディ・アレン監督/2017年)で、好奇心を行動原則とするヒロインを演じたように。エル・ファニングは、天使的な常に身振りで世界にいたずらをするが、同時に、そのいたずらには世界に向けて秘やかに中指を立てるような反抗の精神がある。エル・ファニングの辞書の中には、何をするにも「若すぎる」という言葉はないのだ。『幸せへのキセキ』の台詞に倣うなら、エル・ファニングの答えはいつも明確だ。

「君のような美しい女性が一体なぜ、僕なんかと話をしてくれるの?」
「Why not?(なにが悪い)?」

■宮代大嗣(maplecat-eve)
映画批評。ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、キネマ旬報、松本俊夫特集パンフレットに論評を寄稿。Twitterブログ

■公開情報
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー
提供:バップ、シネマライズ、ロングライド
配給:ロングライド
2019年/アメリカ/英語/92分/ユニビジウム/カラー/5.1ch/原題:A Rainy Day in New York/日本語字幕:古田由紀子
Photography by Jessica Miglio (c)2019 Gravier Productions, Inc.
(c)2019 Gravier Productions, Inc.
公式サイト: https://longride.jp/rdiny

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