シャーリーズ・セロンが繰り返してきた“破壊と再構築” 作家主義的な演技の数々を振り返る

C・セロンのこれまでを振り返る

 シャーリーズ・セロンの近年の活躍は目覚ましいものがある。FOXニュースの創設者によるセクハラに対して立ち上がった女性職員たちの戦いを描く『スキャンダル』では、主演はもちろんプロデューサーに名乗りをあげ、映画化に一役を買った。『ロングショット 僕と彼女のありえない恋』でも製作と主演を務め、『グリンゴ/最強の悪運男』『タリーと私の秘密の時間』『アトミック・ブロンド』でもいずれも製作・出演を果たしている。セクハラに立ち向かうニュースキャスターを演じた『スキャンダル』、女性初の大統領を目指す『ロングショット』など、男女格差が叫ばれる現在の潮流に呼応した役柄を演じ、今年のゴールデングローブ賞では、女性監督がノミネートされていなかったことへの異論も提唱するなど、女優としての活躍に止まらず、プロデューサー、オピニオンリーダーとしての役割も果たすセロン。今、改めてセロンのキャリア、そしてその特異性を振り返ってみた。(編集部)

トム・ハンクスへの憧れ~キャリア初期の運命的な形成~

『すべてをあなたに』

 『スプラッシュ』(ロン・ハワード監督/1984年)のトム・ハンクスに憧れ、「私の方が(ヒロインの)ダリル・ハンナより上手く演じられる!」と自分に言い聞かせていた少女時代のシャーリーズ・セロンにとって、キャリアの最初期に、ほかでもない憧れのトム・ハンクスによる長編監督デビュー作『すべてをあなたに』(1996年)への出演が決まったことは、人生最大の喜びの一つであっただろう。80年代ハリウッド映画のピュアネスを一身に背負っているかのような『スプラッシュ』におけるトム・ハンクスの演技は、恋が始まるときを告げる一瞬の視線のあり方として、ピュアネスの瞬間最大風速値を画面に表象する。少女時代のセロンは、おそらくトム・ハンクスがダリル・ハンナに向ける、少年のような視線と表情の火照りそのものに恋をしてしまった。そして『すべてをあなたに』という作品自体が、在りし時代(60年代)へのオマージュ・愛に満ちており、青春の光と影を描いた音楽映画の傑作であることは、彼女のその後のキャリアを考えると、示唆に富んでいる。

 セロンが、『ノイズ』(ランド・ラヴィッチ監督/1999年)でジョニー・デップ、『裏切り者』(ジェームズ・グレイ監督/2000年)でホアキン・フェニックスという二人のまだ若く、気鋭のな俳優と共演できたことは、その後のキャリアにとって大きな収穫だったと思われる。モデルとして活動を始めたセロンにとって、長身である彼女の持つスケール感が初めて画面にジャストサイズでブローアップされたのが『ノイズ』であり、ここでのジョニー・デップと対面したラブシーンは、カメラが二人の肌を旋回する特異な画面の収まり方も含め、以後のキャリアを左右しか兼ねないほど素晴らしい出来栄えだ。

 『ローズマリーの赤ちゃん』(ロマン・ポランスキー監督/1968年)への美しいオマージュともいえる『ノイズ』(原題は『宇宙飛行士の妻』)は、セロン曰く「独特のリズム」を持つジョニー・デップという稀代の俳優との演技のレスポンス=反射が幸福な形で画面に昇華されている。また『ローズマリーの赤ちゃん』のミア・ファローへのオマージュとして、セロンがセシルカットであることも、映画史との接続は元より、その後にセロンを起用する映画作家のインスピレーションになったことにも触れておきたい。

 『サイダーハウス・ルール』(ラッセ・ハルストム監督/2000年)の中で、マリリン・モンローのような髪型をしたヒロインを演じたセロンが、映画館のスクリーンとの切り返しによって、または何も上映されていないドライブインシアターの真っ白いスクリーンとの切り返しによって、映画史と接続されるという極めて美しいシーンがある。真っ白いスクリーン、何も書かれていないキャンパスに、その切り返しとして浮かび上がるセロン。それを受けてか、『裏切り者』のジェームズ・グレイは、ホアキン・フェニックスとマーク・ウォールバーグにしか興味がないのではないか? と途中まで思わせておいて、終盤にとっておきのショットをセロンに用意している。セロンへの美しいクローズアップである。クローズアップの発明は、映画の創成期にD・W・グリフィスが女優の被写体としての魅力に引き寄せられたことから生まれた、というロマンチックな仮説を信じて疑わなくさせるだけの魅力がここにはある。ここでセロンにサイレント映画の女優の品格を纏わらせてしまうジェームズ・グレイの演出は見事としかいいようがない。在りし時代の肖像を纏い、自らを映画史と接続することにセロンはキャリアの初期から意識/無意識に成功しているのだ。

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