『私の家政夫ナギサさん』が突きつける、時代の変化と価値観のアップデート

『家政夫のナギサさん』が提示する時代の変化

 そしてナギサさんはナギサさんで別の呪縛に苦しんでいるようだ。それは「おじさん」という生き辛さ。いくら母のような気持ちで、メイの部屋を見つめていたとしても、夜に1人で立っているだけで「怪しい」と警戒されてしまう。

 きっと女性だったら、そんなことはなかったはずだ。この家事代行サービスの仕事だってもっとやりやすかったし、メイにも「おじさん」だからと追い出されるように拒絶されることもなかった。

 エプロンをギュッと握りしめながら「私はおじさんですから……」と話すナギサさんに、メイの妹・唯(趣里)は「ナギサさん、プロの仕事におじさんもおばさんも関係ないですよ」と声をかける。人生には自分で選べないことがたくさんあるけれど、自分で「これだ」と決めた道ならば、他の誰かの価値観に縛り付けられる必要はない。

 とは言いながら唯も、メイに対しては「結婚して子どもができて手料理のあったかさとか家族とホッとする時間とか……そういう“普通の幸せ“をお姉ちゃんにも味わってもらいたいと思った」と母親と同じく自分の価値観を押し付けてるだけだったと苦笑いする。

 結婚しなくたって、子どもができなくたって、買ってきた食事だって、1人の時間だって、幸せな人はいる。マッチングアプリで最高の出会いをする人もいれば、競合他社のライバルとうまく付き合うことで双方が利益を得ることもある。全てはケースバイケース。

 だが、やはり新しい選択は前例が少ない分、うまくいくかは未知数だ。ましてや大事に思う家族なら、「こっちのほうがいい」とアドバイスしたくなるもの。しかし良かれと思ってした言動が、人を追い詰めることもあるから、価値観のすり合わせは難しい。

 何がその人にとって「幸せ」になるかは、体験しなければわからない。ならば、チャレンジの数はなるべく多い方が「幸せ」が見つかる確率は高い。そして、その挑戦は今この瞬間の自分ひとりのためではなく、少し先の時代を生きる自分と似た価値観の人の「生きるのが楽しい」に繋がっていく。

 価値観をアップデートさせるのは、未来の誰かのために「楽しい」を最大化させる人類の知恵かもしれない。だからもし身近な人が先駆者となって、残念ながら失敗に終わったとしても、「そこに気づけてよかったじゃないか」と言ってあげようではないか。きっと攻めたり咎めたりしても、誰も救われない。

 せっかく生まれたのだから、誰もが自分の「いい」と思うものをのびのびと発信できる世の中になってほしい。例えばヒロインを救うのが、白馬に乗った王子様じゃなくて家事が得意なおじさん、ドキドキじゃなくてじんわり癒やされる……そんなラブコメディがあってもいいではないか。この先も多様なエンタメが生み出され続けるために。そう、いつだって火曜ドラマは、新しい価値観を受け入れるための、心の整理をしてくれるのだ。

■番組概要
火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜放送
出演:多部未華子、瀬戸康史、眞栄田郷敦、高橋メアリージュン、宮尾俊太郎、平山祐介、水澤紳吾、岡部大(ハナコ)、若月佑美、飯尾和樹(ずん)、夏子、富田靖子、草刈民代、趣里、大森南朋
原作:『家政夫のナギサさん』(四ツ原フリコ著/ソルマーレ編集部)
脚本:徳尾浩司
演出:坪井敏雄、山本剛義
プロデューサー:岩崎愛奈(TBSスパークル)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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