『スカーレット』は“手を繋ぐ”物語だった 何度でも思い出したい喜美子の「大事なもんは大事に」

『スカーレット』総集編に寄せて

 一方で、戦争で離れ離れになった妻を探し続けていた草間(佐藤隆太)は、辿りついた先で、妻が新しい夫と幸せそうに食堂を開いている様を目撃する。手放してはいけない人の手を離してしまった、再び繋ぎなおせなかった人たちの哀しさや切なさ。彼らの穏やかに続く日常は、そんな感情の上に立っている。

 だから、真奈がかつて言っていたように「会えるときに会いたい人には会って」おかなければならないし、喜美子の言うとおり、「大事なもんを大事に」しなければならないのだ

 奇跡のような偶然で出会い、武志への思いを介して熱い握手を交わしたちや子(水野美紀)と草間はもしかしたら、「また」のその先で、再び交じり合うことがあるのかもしれない。そうだったらいいなと思う。でも、そこで容易に人と人を結び付けないのも『スカーレット』らしさである。

 儚く終わった喜美子のおはぎの初恋といい、大切な誰かと出会い、互いに想いあうことは奇跡だ。そして、その関係を継続していくこともまた、奇跡に近い。

 手を繋いで、「ずっと強く繋いでいたら汗でねちょねちょになる」から、時々離して。その手の温もりに小さな願いや思いを込めて。そうやって人生は続いていく。

 『スカーレット』はそんな愛おしい、人々の営みを描いた朝ドラだった。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』総集編
【NHK総合】
前・後編:5月5日(火・祝) 15:05~18:00
【BSプレミアム】
前編:5月7日(木) 9:00~10:25
後編:5月8日(金) 9:00~10:30

出演:戸田恵梨香、大島優子、林遣都、松下洸平、黒島結菜、伊藤健太郎、福田麻由子、三林京子、羽野晶紀、水野美紀、溝端淳平、木本武宏、西川貴教、烏丸せつこ、松田るか、本田大輔、マギー、財前直見、富田靖子、北村一輝、稲垣吾郎ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる