“週6日”の朝ドラ『スカーレット』が残したもの 行間を読ませた小説のような味わい

週6日の朝ドラ『スカーレット』が残したもの

 “朝ドラ”こと連続テレビ小説『スカーレット』は、1961年からはじまった“朝ドラ”の通算第101作目であり、週6日(月〜土)放送のスタイルで制作された最後の作品である。また復活するかもしれないから完全に最後とは言えないが、とりあえず最後の週6朝ドラであった。

 土曜日の朝、最終回(150回)を観て思い出したのは、149回で、主人公・喜美子(戸田恵梨香)の息子で白血病と闘う武志(伊藤健太郎)が残した「いつもと変わらない1日は 特別な1日」という言葉だった。ああ、いつもと変わらない土曜日は今日で終わるのだなと。第102作目『エール』は月〜金の週5回となり、土曜日は1週間を振り返る総集編となる。

 土曜日にまったく違う番組ではなく、朝ドラに関する番組で良かったとはいえ、本編が20回強ほど減ってしまうことは確か。時間にするとだいたい5時間くらいか。同じ半年間の放送とはいえ、それだけなくなると描く内容や見せ方なども変わるだろう。もっとも、昨今は1話完結のドラマや、YouTubeなどで短くさくっと観ることができるものを好む人も増えているし、朝ドラ自体が15分という手軽さが人気の要因のひとつと考えられている。これからはトータル話数を減らし、さらに身軽にすることで、ギュッと中身の詰まったものになり、より時代のニーズに合うことが期待できる。

 週6放送だったときは、例えば『ひよっこ』では土曜日に主人公(有村架純)が実家・茨城に帰郷し、田植えをするエピソードが描かれ、それが週末の朝の癒やしになると好評だった。『わろてんか』では、土曜日になると、主人公(葵わかな)の亡くなった夫(松坂桃李)が幽霊になって出てくるという、あえてやっているのか偶然なのかわからないが、今週は出るかな?という楽しみがあった。そんなことももうなくなるかと思うとちょっとさみしい。

 『スカーレット』は土曜日ならではの企画めいたものはなく、月から土までひたすら丁寧に物語を紡いでいた。行間を想像させたり、直接的な表現をあえてしない言葉遣いだったりが小説のような味わいで、ふだんそれほど朝ドラを気に留めない、文芸関係者たちも注目していたようだ。

 『スカーレット』は、女性の半生を描くドラマでありながら、結婚式や臨終、お葬式などの定番の人生イベント(ハレとケ)を描かず、ハレとケ以外の日常描写にたっぷり尺をとっていたことが特徴だった。舞台も主人公の生家(母屋と工房)、ほぼワンシチュエーションに限られていた。工房の中での喜美子と夫・八郎(松下洸平)の会話だけで一回分を使ったこともあったほどだ。こういう出来事を描くのではなく会話を描く見せ方は『ちゅらさん』『おひさま』『ひよっこ』と朝ドラを3本も手掛けた岡田惠和も好む書き方である。実際、家族がひとつ屋根の下にいるとき、特別なことなんてそれほど起こらず、たわいない会話をしたり、ときには会話すらなかったりするものだ。

 『スカーレット』で印象的だった場面のひとつに、武志が離婚して去っていった父・八郎と久しぶりに会ったとき、「おう」「おう」と簡単な挨拶をして黙ってたぬきそばを食べたということを語るエピソードがある。実際に撮影すらしないで、こういうことがあったと語らせるのも、『スカーレット』ではよくあった。最終回でも、八郎が武志と飲みにいった話、主治医の大崎先生(稲垣吾郎)が、武志の手を握った話などが思い出として語られる。実際の場面として描く以上に、思い出して語ることで、出来事がこのうえもなく美しいものへと昇華する。まさに「特別な」ものに。

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