Netflixで鑑賞可能なアメリカの大人向けアニメのオススメは? 映画評論家・小野寺系が5作を厳選

Netflixの大人向けアニメーション5選

 Netflixで観られるアニメーション作品は様々あるが、ここで取り上げるのは、魅力的なアメリカの大人向けアニメーション作品だ。

 日本のアニメは多様な表現を持っているが、一定の傾向があるのもたしかで、たとえば中高生が主人公の作品が多く、30代以上の大人が自分の問題と重ねて楽しむことのできる作品が限られていたり、独特の絵柄が受け付けないために敬遠している視聴者も少なくないだろう。

 だが、とりわけアメリカでは、大人のためのアニメーションがジャンルとして確立している。そんな世界を、手軽に観ることのできるNetflixで楽しんでほしいというのが、この記事の趣旨である。ここでは、海外のアニメーション作品にあまり馴染みがなかったり、実写映画は好きだがアニメーションには興味が持てないという人のために、アメリカのアニメファンである筆者が厳選した作品を5つ紹介したい。

1.『ボージャック・ホースマン』

 2014年からスタートし、2020年に好評のまま全6シーズンの幕を閉じた、「アニメーションのアカデミー賞」といわれるアニー賞などを獲得しているアニメシリーズ。すでに伝説的な存在となっていて、Netflixでは早めに観ておきたいタイトルの一つだ。

 学生時代からの知り合いである、コメディアンのラファエル・ボブ=ワクスバーグと、イラストレーターでコミックアーティストのリサ・ハナウォルトによって創造された、擬人化された動物たちと人間たちが同じ知能を持って共存しているという世界観のコメディーなので、気楽な気分で見始めてしまうところがあるが、実際に描かれているのは、人間の生き方を深く追求するような文学的内容だ。これに最も近い小説は、アメリカ文学を代表するといわれる、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』だろう。

 主人公はボージャックという名前の馬。『フルハウス』のような、家族を題材にしたシチュエーションコメディーのTV番組で、90年代に一世を風靡した俳優でもある。影響力が落ちてしまったいまでも、成功の象徴であるL.A.の高級住宅地に住み、プールがあるデッキから街を見下ろして、酒やドラッグ、セックスに溺れる破滅的な毎日を送っている。その結果、いつも自分の周りの人々を傷つけて自己嫌悪に陥る……という繰り返し。

 心機一転し、ショービズ界でもうひと花咲かせたいボージャックは、自身の回顧録を出版しようとする。そのために雇われたのが、ベトナム系アメリカ人である若い人間の女性のゴーストライター、ダイアンだ。境遇も性格も異なるふたりには、繊細で傷つきやすく、暗い子ども時代を過ごしたという意外な共通点があることが明らかになっていく。そしてエピソードが進むごとに、彼らは人生(馬生)の道を何度も踏み外し、その度に深く苦悩していくことになる。毎エピソード、シチュエーションコメディのような気の利いたラストを迎えるわけでなく、いつも気まずく、苦い現実を噛み締めることになるのだ。

 人生の最も輝かしい瞬間が過ぎ去ったとしても、人は老いていく身体を引きずって生きていかなければならない。固まってしまった性格も生き方も変えられず、忍び寄ってくる苦い現実を少しずつ受け入れていく。それは、おそらくわれわれも多かれ少なかれ、経験していくことである。そんな重苦しい絶望のなかで、もがき続けるボージャックやダイアンたちに希望はあるのか。ぜひ第6シーズンのラストまで観て、自分の生き方の答えについても考えてみてほしい作品だ。

2.『トゥカ&バーティー』

 『ボージャック・ホースマン』のリサ・ハナウォルトの過激なコミック作品を基に、今度は鳥を擬人化したキャラクターたちが登場するアダルトアニメ作品。コメディアンのティファニー・ハディッシュとアリ・ウォンを声優に迎え、それぞれオオハシ、ウタツグミの30歳女性が、幸せを求めて生きる姿を描いている。

 物語の中心となっているのは、ちょっとネガティブな性格であるウタツグミのバーティ。彼氏との倦怠期を迎えていて、会社ではセクハラやパワハラに遭っている。そんな人生を変えようと必死なバーティは、現状を打破しようとして失敗する日々を送り、親友のオオハシ、トゥカの、ときにうざったくなるほどの底なしの明るさに救われている。

 女性の就労についての難しさなど、『ボージャック・ホースマン』同様に深刻な要素を描いているが、主人公のトゥカがこれ以上ないほどテンションが高くエネルギッシュなため、作品自体の印象は明るく、後続の作品ということもあり、ヴィジュアル的な完成度も飛躍的に高まっている。

 注目したいのは、女性主人公の作品として先端的だという部分だ。これまでアニメーション作品では、女性が客体として描かれることが多かった。女性主人公の作品でも、男性の目を意識して魅力的に見えるように作られていたり、女性の赤裸々な感情や欲望は“罪だ”とばかりに、ぼかされている場合が少なくない。

 そんななか『トゥカ&バーティー』は、ときに過激で真に女性キャラクターたちが主体になって突き進んでいく作品だ。そんな彼女たちの姿は、鳥ではあるものの、どんなアニメーション作品よりも人間らしい血が通っている。だからこそ、彼女たちに降りかかる人生の試練が自分のことのように共感できるし、応援したくなってくるのだ。

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