クラシカル志向だが現代的 『塔の上のラプンツェル』は“ステイ・ホーム”のいま観たい作品に

 グリム童話を基に、長い間塔にひとり幽閉されてきた姫の数奇な運命を描く、ディズニーの劇場アニメーション『塔の上のラプンツェル』。新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界的に“ステイ・ホーム”が呼びかけられているいま、これが地上波放送されるというのは、少しばかり気が利いた企画だと思える。

 そんな本作『塔の上のラプンツェル』をいま見直すと、いろいろな意味で感心するところが多く、深みのある作品だったと気づくのだ。ここでは、本作の内容を振り返りながら、とくにいま興味深いと思える部分を考察していきたい。

 ディズニーの象徴的なジャンルである“プリンセス・ストーリー”としては、本作は初めて全編3DCGで描かれた挑戦作である。そのため製作はかなり難航し、およそ300億円の予算が投じられた超大作としても知られている。だが、これがその後ディズニーのアニメーション作品の礎となり、『アナと雪の女王』(2013年)の大ヒットへとつながったと思えば、それも必要な過程であったはずである。

 まだまだ発展途上で改良の余地のあるアニメーションのCG技術。ディズニーのように表現をリードしなければならない大作の製作においては、毎回試行錯誤の連続だ。『アナと雪の女王』では、CGによるリアリティある雪の表現を実現するため、『モアナと伝説の海』(2016年)ではいままでにない水の表現を達成するため、それぞれ雪や水の物理的な動きをシミュレートするソフトウェアをわざわざ開発したという。

 それらの以前に製作された『塔の上のラプンツェル』でも、作品の命ともいえる髪の毛の表現のため新しい技術が研究されている。この苦心があったことで、適切な繊細さと重みのある、絶妙のバランスを実現し、美しく実体感ある表現を完成させることに成功したのだ。このような技術は本作のみならず、ディズニーの後の作品にも使われていく。作品を作る度にスタジオの表現力がレベルアップしていくのである。

 新たな試みが行われているのは、CG技術だけではない。グリム童話では、王子がラプンツェルの長い髪につかまって何度も塔に登って愛を交わし、いつしかラプンツェルが妊娠するという、子ども向けではない要素も含まれているが、後にアクロバティックな物語が描かれる『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』(2018年)の脚本、監督を手がけることになるダン・フォーゲルマンは、それを現代的に見やすい内容にするだけでなく、2020年のいま見ることでより理解できるほど先進的なものにしている。

 主人公は、触れた者を若い状態に戻す魔法の力を宿した髪の毛を持って生まれてきた、王国の姫ラプンツェル。彼女の力をねらい若さを保とうとする老婆ゴーテルは、まだ生まれて間もない赤ん坊のラプンツェルを城から奪い去る。そしてラプンツェルは、18年もの間、高い塔の一室に閉じ込められ、ゴーテルを母親と信じ込まされることで、利用され続けている。

 そこに現れるのが、盗賊ながら心の奥には優しさや純真さを秘めた男、フリン・ライダーである。フリンは、外に出てみたいと願うラプンツェルを連れて、未知の世界を見せていく。そこは、ゴーテルが言ったようなおそろしい場所ではなかった。

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