『INGRESS』から『BNA ビーエヌエー』まで フジテレビのアニメ枠「+Ultra」の戦略と思想
2020年春クールのアニメの放送が始まっている。その多彩なラインナップの中でも、吉成曜監督/中島かずき脚本の『BNA ビーエヌエー』は、TRIGGER制作陣の持ち味が存分に発揮され、一際異彩を放っている。個性的なキャラクター、小気味のよいテンポ、スタイリッシュな美術と、その注目ポイントは数多くあるが、中でも「+Ultra」での放送という事実は、単なる放送枠の問題であることを超え、本作の魅力に本質的に関わっているように思える。
本記事では、これまで「+Ultra」枠で放送されてきた作品からその戦略と思想を読み取りつつ、『BNA』という作品の魅力、ひいては日本アニメの魅力を考察していこうと思う。
“日本”というローカリティの問題
2018年から放送を開始したフジテレビの「+Ultra」は、海外市場を視野に入れた放送枠であり、概ね国内向けにターゲティングしている同社の「ノイタミナ」とは意識的に差別化を図っている。そのラインナップを具に通覧していくと、「+Ultra」の思想と戦略が克明に浮かび上がってくる。
その1つが、“日本”というローカリティ(局所性)の処理である。櫻木優平監督の『INGRESS THE ANIMATION』(2018年秋)は、ボーイミーツガールと世界救済という、いわゆるセカイ系的な設定を基調としながら、主人公たちの年齢設定を上げ、登場人物を多国籍にし、日本から世界各地に移動する展開にするなど、海外の嗜好に馴染みやすいカスタマイズがなされている。
世界的に有名な谷口悟朗を監督に起用した『revisions リヴィジョンズ』(2019年冬)は、日本の渋谷を丸ごと未来へ漂流させるという大掛かりな舞台転換を行うことにより、日本という土地の現実性に束縛されない“非常事態の渋谷”という記号を抽出し、高校生がヒーローとなり世界を救うという典型的に日本的な設定に普遍的な説得力を持たせている。
この2作品に共通するのは、“日本”というローカリティに束縛されない作品によって海外に訴求する、という戦略だ。「+Ultra」のプロデューサー森彬俊は、「+Ultra」と「ノイタミナ」の違いに言及しながらこう述べている。
「たとえば『ノイタミナ』で放送された人気作『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などは、とても日本的な作品ですよね。もしかすると、海外の視聴者には『日本の一地方の物語でしょ』と最初から選択肢に入れてもらえない可能性もあります。だから『+Ultra』ではファーストインプレッションをフラットにできるよう、世界中の人々が自分のこととして捉えられるような物語を作っていきたいと思っています」( 新アニメ枠「+Ultra」スタート!「ノイタミナ」との違いはどこにある?「+Ultra」プロデューサーの狙いとは | フジテレビMuscat)
この点をラディカルに追求したのが、渡辺信一郎監督の『キャロル&チューズデイ』(2019年春・夏)だ。2人の少女がプロミュージシャンとして成功するさまを描いた本作は、火星に舞台を設定し、作中歌の歌唱を英語ネイティブが担当するなど、作品全体を文字通り“リンガフランカ”に仕立て上げている。音楽への造詣が深く、海外に多くのファンを持つ渡辺監督の真骨頂が発揮された作品と言えよう。