『INGRESS』から『BNA ビーエヌエー』まで フジテレビのアニメ枠「+Ultra」の戦略と思想

+Ultra枠の戦略と思想を探る

“雑多性”というアイデンティティ

 ともすると、こうした作品ラインナップの傾向は、作品から日本的な要素を脱色し、不当な“グローバル化”を図っているのではないかという誤解を招きやすい。しかし「+Ultra」の戦略がそのような減算的な発想にあるのではないことは明らかだ。

 板垣巴留原作/松見真一監督の『BEASTARS』(2019年秋)は、擬人化された肉食獣と草食獣の対立・共存・友愛をテーマとしている。架空の街を舞台としながらも、日本の繁華街を思わせる街並みが描かれたり、通貨として日本円が登場したりと、そこかしこに日本的な要素を忍ばせる遊び心が窺える。

 桑原太矩原作/吉平"Tady"直弘監督『空挺ドラゴンズ』(2020年冬)は、「龍」を狩りながら生計を立てる空挺乗りたちの物語だ。ローカリティを感じさせない冒険ファンタジーの装いだが、捕獲した龍を料理して食べる“グルメ要素”やのんびりとした“日常系要素”は、間違いなく日本のマンガ・アニメの中で培われた表現ジャンルだ。

 日本のマンガを原作とし、日本的な要素を多分に含んだ作品を敢えてラインナップに取り入れ、海外の視聴者の評価を問うというこの「+Ultra」の戦略に、日本的なものを間引くという発想は見られない。

 実は「+Ultra」の理念は、番組放送前に流れる数秒間のムービングロゴ(制作は大友克洋)に暗示されている。そこでは眼鏡をかけた怪しげな男、昔の映画のカウントダウンのような図像、サボテンのような植物、線路、丸いキャラの顔が次々と映し出される。それぞれの絵に関連性はなく、1カットに1文字ずつ現れる「+Ultra」の文字列だけがアイデンティティらしきものを保証しているようだ。

+Ultra ムービングロゴ

 このムービングロゴについて、森はあるインタビューの中で次のように述べている。

「ムービングロゴとは枠の扉であって、『+Ultra』枠からは、何が出てくるか分からない多種多様なものがあるよ、日本の文化とかに縛られないものが出てくるよ、ということを表現していただきました」(アニメ枠としてノイタミナに続く『+Ultra』を始めるフジテレビの森彬俊プロデューサーにインタビュー | Gigazine

 ややもすると、“異世界系”のような特定のジャンル作品が自己複製的に産み出される日本のアニメシーンにあって、敢えて新しい要素を加算していき、雑多な要素が混在した状況を作り出す。「+Ultra」という枠のアイデンティティとは、まさしくこの“雑多性”にあるのではないだろうか。

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