伊藤健太郎の消えることのない情熱 『スカーレット』は死生観を問う作品に

『スカーレット』伊藤健太郎の消えない情熱

 武志(伊藤健太郎)の焼いた大皿が音を立てていることに気づいた喜美子(戸田恵梨香)。本焼きをしてから冷ますまでの間に、釉薬を塗った表面に「貫入」と呼ばれるヒビ模様ができる。耳をそばだててその音を聞いた武志は、「焼き上がって完成したと思てたのに、終わってなかったんや」とつぶやく。

 『スカーレット』(NHK総合)第146話で作品の発する“声”を聴くシーンは、器と会話をしていた小池アンリ(烏丸せつこ)を思い起こさせる。喜美子は「作品は生き物や」と語るが、試行錯誤を重ねて完成した大皿を見る武志の眼差しは、我が子を見つめる親のそれだった。

 一方で武志の病状は進行し、目に見えて体力が奪われていく。前回放送でも八郎(松下洸平)が作った卵焼きの味がわからないという描写があったが、喜美子の料理にも手をつけず横になる。そんな武志に、喜美子はきっぱりと「お母ちゃんはあんたが生きていくことしか考えてへんねん」と言い切る。

 連続テレビ小説の最終章で、刻一刻と死に近づいていく武志の姿をどのように描くかという課題に制作サイドが頭を悩ませたであろうことは想像にかたくないが、彼らが導き出したのは目の前にある1日を丁寧に積み重ねるという答えだった。

 「ごはん食べるんが今日の仕事や」と喜美子は武志に語る。生きることが希望であるというメッセージは、新型コロナウイルス感染症によって、この瞬間にも尊い人命が失われつつある状況では余計に切実に響く。最終週のタイトルは「炎は消えない」。「穴窯をもっかい焼く」と宣言した喜美子の姿に創作意欲を掻き立てられた武志は、「みんなの陶芸展」に向けた作品づくりに取り組む。たとえ病に冒されても、それは決して終わりを意味しない。作業台に向かう武志の表情からは、病気に負けないという意思と、消えることのない陶芸への情熱が垣間見えた。

 『スカーレット』は女性陶芸家・川原喜美子の歩みを通して、性別や立場を超えて一人ひとりが個性を追求する時代の変化を切り取っていた。死生観が問い直されつつある現在、自身の命を燃やして作品に結晶化した喜美子たちの生き方は多くの示唆を与えてくれる。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
2019年9月30日(月)〜2020年3月28日(土)放送予定(全150回)
出演:戸田恵梨香、大島優子、林遣都、松下洸平、黒島結菜、伊藤健太郎、福田麻由子、マギー、財前直見、稲垣吾郎ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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