アニメ映画『音楽』に至るまでのロトスコープの長き歴史 “邪道な手法”と言われる時代は終わった?

ロトスコープが辿った長き歴史

 「ベース、ベース、ドラム。こんなバンド編成があるのか!?」

 アニメ映画『音楽』を鑑賞した、元バンドマンの知人が熱く語る姿が印象に残っている。岩井澤健治監督を筆頭に、少ないスタッフで7年間かけて4万枚以上描き、ロトスコープで製作した本作が、峯田和伸、井口理などのミュージシャンからも熱い支持を受け、話題を呼んでいる。本作で使われたロトスコープという手法が辿った歴史を振り返ってみたい。

 ロトスコープはアニメーションにおける手法の1つだ。実写で役者が演じた映像を元に、体型や輪郭などを線で拾い、紙に描き写していくことで動きを作り出す。手法自体は古くからあり、1937年に製作されたディズニーアニメーションの『白雪姫』や、A-HAの「Take on Me」のPVなどでも使われている。日本では全編ロトスコープで製作されたテレビアニメ『悪の華』や、岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』が注目を集めた。

 その特徴は、人間の実際の動きを元にすることで、細かい動きをより緻密に再現することだろう。ダンスや演奏シーンは、想像では書くことが難しい上に音源と合わせる手間もあり、画面上のキャラクターを実際に踊っている、弾いているように見せるのは至難の技だ。こういったシーンにロトスコープを用いることで、キャラクターが音に合わせて踊っているように見せることができる。『君の名は。』序盤の神楽を踊る場面や『空の青さを知る人よ』のバンド演奏などでも、演舞や演奏を実写で撮影し、その動きをトレースすることで、魅力的な動きを作り出している。このように、日本では一部の場面で限定的にロトスコープを活用しているケースが多い。

 一方で、「ロトスコープは邪道」という価値観も存在する。“アニメーションは動きの創造”という価値観から、人間の動きをロトスコープでそのまま描き写す行為は、作品の個性が失われる危険もあるため、アニメーションの理想から外れていると考えられてきた。『美術手帖』2020年2月号では、岩井俊二監督が『花とアリス殺人事件』の相談のために鈴木敏夫プロデューサーの元へいったところ、門前払いのような扱いを受けた、という話もある。また『アニメスタイル004』では、『悪の華』の助監督である平川哲夫は、全編ロトスコープで撮るという話が来た時に「ふざけるな」と発言したと明かしている。

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