深田晃司監督が明かす、『よこがお』製作の裏側 「曖昧な世界をそのまま描くことが大事」

深田晃司監督が語る『よこがお』

最初の“編集”はタイトルと本編

――『よこがお』というタイトルを付けたことで、映像に意味が発生したと感じます。顔をどう撮るか、横から撮るか正面から撮るかの違いに何か意味があるのではないかと思ってしまうんですよね。

深田:元々『よこがお』は仮タイトルだったのですが、(仮)とはいえ『よこがお』というタイトルで撮っていたので、気づいたら横顔のシーンが多いよなとなっていましたね。

――台詞が曖昧な時は横顔で撮るとか、そういった法則性はあるのでしょうか? 

深田:そこまで意識はしていないですね。きれいな横顔を撮ろうとは思っていましたが。

――それこそ髪型の違いからはじまっているので、全てのカットに意味があるような気がしてくるんです。

深田:そうあって欲しいとは思いますね。やっぱり、タイトルの呪縛力は凄いと思います。タイトルには、単純に映画の内容がわかりやすく説明されている「看板」になるようなものと、見終わった後でタイトルを思い出すとより作品が豊かに感じられるものの二種類あると思うのですが、私は後者のタイトルが好きなので『よこがお』というタイトルは気に入ってます。

 「異物と異物の衝突がモンタージュ(編集)だ」と言う言葉がありますが、最初の“編集”はタイトルと本編の衝突だと思うんです。あらすじを知らないで映画を観る人がいても、タイトルを知らないで映画を観る人はいないじゃないですか。だからお客さんが最初に触れる映画の情報はタイトルであって、その後で本編が来るんですよね。そこがキチンとぶつかりあっているタイトルと本編の関係はいいなと思っているので、できれば毎回そうなっていてほしいなと思います。

――特典映像を観たら、市子さんの髪の毛が緑になってからのシーンが、まるごとカットされていたことに驚きました。本編で観た時は、気絶した時に観た夢であると同時に塔子(大方斐紗子)さんの絵の世界に入り込んだようなイメージショットだと理解したんですよ。

深田:素晴らしい解釈だと思います。正解はないんですけど。

――美容室で髪を染めて以降が、結構長いですよね。あれは現実の映像だったということですか?

深田:撮影稿においては現実の映像という設定でした。オープンカーまで借りてロケ撮影をしたんですけど、申し訳ないことをしたなぁと思いますね。

――何故、カットしたのでしょうか? 

深田:脚本段階でも撮影段階でも良いシーンだったのですが、構成がちょっと段取りっぽくなってしまって。心の流れがあまりにも腑に落ちすぎて、面白味に欠けたのですが、湖のシーンは力強いショットだから使いたかったので「説明をせずにポンと置く」という結論になりました。ですので、過呼吸の市子が見た脳内の映像と思っていただいてもいいですし、どこかでああいう一日があったのかもしれないと思っていただいてもいいです。ちらほら聞く解釈では、あれは市子の妹だと思った人も多いみたいですね。4年後に辰男のお母さんが死んじゃったという台詞があるので、あれは妹の入水するシーンなんじゃないかという人もいたりして。

――脚本では地続きの現実として書いた場面をカットした結果、意図しない観方をする人が出てくることに対しては、どう思いますか?

深田:面白いなと思います。編集段階ではイメージができていたので、あのシーンを切るまでに葛藤があって、あれこれ試したのですが。やっぱり編集は基本的に一から作り直す作業なので脚本から一回離れないといけないから、仕方がないですね。

――最終的に、自分の手を離れたものが作品だという感じですか?

深田:親と子みたいなものなのですよね。親はその子どもの一番身近な存在ではあるんですけれども、親からみた子どもなんてごく一面しか知らないわけじゃないですか、だからどう解釈されても構わないし、自分の知らない一面がお客さんの感想を聞いてあぁなるほどってこともあるし。ですので、違う解釈が出るのは嬉しいです。

――深田監督は音の使い方が毎回凄く面白いです。たとえば、塔子さんを介護している時に流れるクラシック調の音楽です。ふつうの映画なら劇伴なんですけど、実際にCDを流していたと後でわかるのが、深田監督の映画だなと思いました。

深田:フランスのエリック・ロメール監督が大好きで、彼はほとんど劇伴を使わないんですよ。基本的にそこで流れている音楽を使うというスタイルなんですが、すごく共感しています。やっぱり音楽って強いんですよね。一気に観ている人を同じ気持ちに持っていく力があるので。だから、使い方には慎重にならないといけないと思っていると、音楽がどんどん減っていくという(笑)。

――音楽のボリュームを上げることで、この音楽が流れていたものだとわかるのですが、あのシーンを見た後は、劇中の音、すべてが気になってしまいました。

深田:劇伴をほとんど使わない分、周囲の日常の音が際立っていくというのはあると思います。基本的には同録を活かしたものですが、音自体はアフレコでかなり足しています。

――音も映像も、すべてに意図があるように思えてきます。

深田:こちらの意図以上に感じ取ってくれているなと感じます。やっぱり実写映像って世界にカメラを向けているから、完全にコントロールするのは無理なんですよね。その代わり監督の意図以上に豊かなものが映っているはずなので、お客さんが主体的に観ようと思えば、おのずと色々なことを発見してくれるはずだと思っています。

――最後に、主体的に観てもらう上で大切にしていることを教えてください。

深田:想像できる余白を増やすということですね。それは芝居の間かもしれないし脚本の構成かもしれないし、俳優の演技で感情を説明しないということだと思います。

■リリース情報
『よこがお』
1月22日(水)、Blu-ray&DVD発売
Blu-ray特別版:5,800円+税(本編BD+特典DVD)
DVD:3,800円+税(本編DVD)

●Blu-ray特別版 初回限定 外装・封入特典
・インターナショナル版アウタースリーブ付
・よこがおポストカードセット(3種)封入

●Blu-ray特別版 特典映像
・メイキング&インタビュー集
・イベント映像集(完成披露試写会/初日舞台挨拶)
・深田監督責任編集 ロカルノ映画祭記
・未公開シーン集
※内容・仕様等は予告なく変更になる場合がございます。

出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤蓮、小川未祐、吹越満
脚本・監督:深田晃司
配給:KADOKAWA
発売・販売元:ポニーキャニオン
2019/111分/カラー/日本=フランス/5.1ch/ヨーロピアンビスタ
(c)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS
公式サイト:yokogao-movie.jp

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