深田晃司監督初のドラマ『本気のしるし』、“わかりにくさ”から生まれる独特の中毒感

深田晃司監督初のドラマ『本気のしるし』、“わかりにくさ”から生まれる独特の中毒感

退屈な男と危険な女が出会い、ふたりは地獄へ堕ちていく

 もし打ち上げ花火があったとして、住宅街の真ん中にあるような公園で、夜中にそれを上げるかどうか。たぶん大抵の人はやらない。騒音が気になるし、近所迷惑になる。それが世間の常識というものだ。けれど、この物語のヒロイン・葉山浮世(土村芳)はまるでそんなことを気にしない。諌める主人公・辻一路(森崎ウィン)に対して「つまらないの」と小さくふてくされ、隙をついて勝手に打ち上げ花火を上げてしまう。禁止されていることでも、やりたいと思ったらやる。無計画で、無軌道で、だからこそほっておけない、魔性の女だ。

 ドラマ『本気のしるし』(メ〜テレ)が面白い。『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した深田晃司監督がメガホンをとり、『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビューを果たした森崎ウィンが主演を務める。メ〜テレでは、石井裕也監督の『乱反射』、今泉力哉監督の『his〜恋するつもりなんてなかった〜』など、近年実力派の映画監督とタッグを組んだ作品づくりが目立つが、今作もその系譜に連なる秀作だ。

 原作は、星里もちるの同名漫画。運転していた車が踏み切りで立ち往生し、あわや電車と衝突の危機に瀕した浮世を、偶然通りがかった辻が救い、そこからふたりの名前のつけられない関係が始まっていく。

 近年の人気ドラマのメソッドは、スピード感ある編集とハイテンポな会話が鉄則。だが、深田監督のつくるドラマはそれらと一線を画す。血が沸騰するような“熱狂”的な面白さではない。むしろ何だか掴みどころがないままに、その手ざわりを探っていたら、いつの間にか手のひらが真っ赤に膨れ上がっていた“低温火傷”のような面白さだ。

 とにかく出てくる登場人物がみんな奇妙なのだ。中でもヒロインの葉山浮世は名前通り浮世離れにも程がある。お金にだらしなく、すぐバレるような嘘を平気でつき、かと言って悪辣というわけではなく、借金取りの取り立てに怯え、言われるがままに風俗に沈められそうになるなど、とろくて愚かで隙だらけ。よく気が利くとか、おしゃべりが上手とか、そういう長所もない。はたから見れば、地味で垢抜けない、十人並みの女性だ。

 だが、そこが男たちを惹きつける。男の庇護欲を掻き立て、いつの間にか彼女といる時間に安らぎを覚える。黒木華と同じ京都造形芸術大学映画学科俳優コースで演技を磨いた土村芳が、この得体の知れない女を魅力的に演じている。

 そんな浮世に振り回される主人公の辻も、やはり奇妙だ。一見すると真面目なサラリーマンだが、同じ職場の細川先輩(石橋けい)とみっちゃん(福永朱梨)に二股をかけ、しかしどちらに対しても本気ではなく、悪びれる様子もない。だからと言って、軽薄なお調子者でもなく、赤の他人である浮世にお金を貸したり、トラブルがあるたびに駆けつけたり、義理堅い一面も持ち合わせている。

 不可解なのが、その行動が下心ありきではないからだ。辻は浮世に手を出さないし、むしろ苛立たしげに声を荒げる場面の方が多い。原作ではモノローグがあることで、もっと辻の内面を容易く読み取れるのだけど、ドラマではそういったわかりやすい解説はあえて排除された。その分、平坦な毎日に突如現れた浮世という刺激物に、どうしようもなく惹きつけられてしまう理由を丁寧に表現しなければならないのだが、森崎ウィンはこの難しい役どころを、よく理性的に演じていると思う。

 まるで本心のわからない辻と浮世。ただふたりがずるずると地獄に堕ちようとしていることだけはわかるから、ますます目が離せなくなる。

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