『本気のしるし』は“男女の関係”をどう描いた? 深田晃司監督が目指したドラマの脱ステレオタイプ

深田晃司監督が語る『本気のしるし』の裏側

 メ~テレ制作によるドラマ『本気のしるし』。東海3県(メ~テレ、毎週月曜深夜0時54分~)とテレビ神奈川(毎週水曜よる11時~)のみと、地上波での放送は限定されているが、TVer、GYAO!では1話からの一挙配信もスタートし、じわじわと話題を呼んでいる。

 本作を手がけたのは、映画『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞し、今年7月には新作映画『よこがお』が公開された映画監督・深田晃司。オーディションで選ばれた森崎ウィンと土村芳演じる辻一路と葉山浮世という男女の偶然の出会いから、ゆるやかに日常が壊され、転落していく様子が描かれていく。

 深田監督にとって初のドラマとなる本作。2000~2002年にかけて青年コミック誌『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で連載されていた原作に20歳の頃に出会い、当時から映像化を熱望していたという。「恋愛サスペンス」と言いながらも一筋縄ではいかない男女の関係が描かれた本作にどう取り組んでいったのか。じっくりと話を聞いた。

「青年誌のヒロインの典型である浮世が現実にいたら……」

ーー深田監督は原作の『本気のしるし』を読んでいて今回念願の映像化だったと聞きました。原作のどんなところに惹かれたのでしょうか?

深田晃司(以下、深田):『夢かもしんない』や『りびんぐゲーム』など、昔から星里もちる先生の漫画は読んでいました。とにかくストーリーテリングが面白くて、いわゆるラブコメではあるのですが物語構成がかっちり作られているんです。それで「星里もちる先生の新刊」として2000年頃に『本気のしるし』を読んだ時に、ラブコメのラブの部分は残っているけれどコメディの部分が全くないところが引っかかって。『本気のしるし』というタイトルの凄みと相まって、当時夢中で読んでいました。

ーー確かに本作をジャンル分けするなら、「ラブコメディ」ではなく「ラブサスペンス」になりますね。

深田:最初に惹かれたのは、これからどうなるんだろうというヒリヒリするようなサスペンス部分でした。当時から映像化するとしたら、映画だと時間的に原作を損なうことになるし、転がっていく要素がすごく連続ドラマっぽいなと思っていましたね。当時はそういうストーリー構成に興味があったのですが、今思うと人間の描き方が一面的ではなく、日常生活をそつなく送りながらどこかで闇みたいなものを抱えている人たちや、浮世という女性の面白さに惹かれていたのかもしれません。星里先生の作品の中で僕が『本気のしるし』に異様さを感じたのは、星里先生にとって自己批評的、あるいは自己否定的とさえ思えたからだと思います。浮世はいわば男好きのするような、男性にとって都合のいい危険な女性ですよね。ドキッとさせるような隙のある発言をして、男性はどんどん引き込まれていってしまう。この女性像はある意味青年誌のヒロインの典型でもあります。青年誌のヒロインは、基本的には男性の恋愛のために存在するキャラクターであり、ある種の娯楽として消費されていく。でも、そういった女性が現実にいると、やっぱりそんなに朗らかなものではないし、その女性自身も周りも傷ついていく。青年誌で描かれているジェンダー観は、現実とは齟齬があるし、非常に歪んでいます。星里先生がどこまで意識的だったのかはわかりませんが、たとえば藤子・F・不二雄先生が大人向けのSF短編になると、子ども向けに描いている自身の世界観を徹底的に否定していくような内容を描いていたのと近いのかもしれません。

ーー女性をどう描くかというのは、とても今日的なテーマですよね。

深田:当時から映像化したいといろんなところで言いふらしていたんです。それで2016年に戸山剛さんというプロデューサーが原作を読んでくれて企画が通って、三谷伸太朗さんが脚本を担当してくれることになりました。19年も前の原作ですし、例えば『ONE PIECE』のような老若男女が知っている作品でもないので、今回こうやってやりたいと思ってくれたのは、メ~テレさん的にも、今の時代に響く内容だというテレビ局としての直感があったんじゃないかなと思っています。

ーー深田監督が恋愛に主軸をおいた作品は作るのは、今作が初めてでは?

深田:そうですね。『ほとりの朔子』や『海を駆ける』も若者たちの恋愛事情みたいなものは描いていますが、『本気のしるし』はある意味「恋愛しかない」とも言える作品です。ただ、恋愛と言っても、それはコミュニケーションの延長線上にあるものだと思っているので何か特別意識したことはありません。コミュニケーションの行き違いや齟齬を描くという点ではこれまでの作品も基本的には同じです。

森崎ウィン

「オーディションで重視したのは“自分の言葉で話してるか”」

ーー一見すると浮世は「魔性の女」的、辻は「クズ男」的な言動をとるんですが、そう一括りもできないキャラクターで。これまでドラマで描かれてきたようなある種ステレオタイプな男性像・女性像、あるいは男女の関係性みたいなものにはあてはまらない面白さがありました。

深田:そこは原作のすごさで、それをドラマでもできたのは俳優のみなさんの力が大きいと思います。実写のドラマや映像において、どこでステレオタイプが作られてしまうかというと、やはり土台となる脚本と、それから、俳優の演技がある種の型にはまろうとしてしまうことがすごく多いんです。

土村芳

ーー今回、森崎ウィンさんも土村芳さんもオーディションで選ばれているんですよね。

深田:はい。もちろんベースとしては単純に芝居がうまいというのもあるんですが、それに加えて脚本を解釈する力や、それを言葉にする時にある種のクリシェではなくて自分の言葉で話してるか、という部分を重視しています。辻は一見すると清潔感のある爽やかな外見でありながら、その奥に闇を抱えているという両方を体現できる人がいいなと思い、森崎さんにお願いしました。また、浮世に関しては、キャリアのある方や十分に演技の巧い人もたくさんオーディションに来てくれたのですが、当初の予想通り難航しましたね。オーディションではいくつかのシーンをやってもらって、特に重要だったのは第3話のファミレスのシーン。辻に向かって「私、辻さんに油断してるのかな」というすごく隙のある発言をする場面を演じてもらいました。ビールを飲んで酔っ払っているというのも含め、どうしても多くの方は恋愛の駆け引きみたいに見えてしまったんです。そこを土村さんはすごくナチュラルに、自然とそういう発言が出てきたように演じてくれて、それが決め手になりましたね。

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