2019年の年間ベスト企画
年末企画:成馬零一の「2019年 年間ベストドラマTOP10」 演技と演出における新しい方法論
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第15回の選者は、ドラマ評論家・成馬零一。(編集部)
1.『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)、『本気のしるし』(メ〜テレ)※同率
3.『全裸監督』(Netflix)
4.『きのう何食べた?』(テレビ東京系)
5.『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK総合)
6.『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)
7.『スカム』(MBS/TBS系)
8.『スカーレット』(NHK総合)
9.『ひとりキャンプで食って寝る』(テレビ東京系)
10.『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)
1位の『いだてん』は2019年のみならず、物語の規模、映像のクオリティ、同時代性、宮藤官九郎の作家性の円熟においてテレビドラマ史におけるひとつの到達点と言える仕上がり。2010年代は『あまちゃん』(NHK総合)と『いだてん』の年だったと、改めて思った。
ただ、あまりに豪華絢爛すぎて皿の上の料理を全部味わって食べられたのかというと自信がない。その意味で受け手のキャパを大きく超えた作品だと言えよう。本放送で咀嚼できなかった部分は、これから繰り返し見て、この物語が何を描いていたのか、来年のオリンピックといっしょに考えてみたい。とりあえず勉強がてら、落語を聴こうと思う。
『本気のしるし』は、最初は2位にしようと考えていたが、最終話の締め方が素晴らしかったので『いだてん』と並ぶ一位とした。映画『淵に立つ』、『よこがお』等で知られる深田晃司が全話の監督を努めたサスペンステイストの恋愛ドラマだが、とにかく画面が不穏で目が離せない。『いだてん』が、これまでのテレビドラマの総決算だとしたら、『本気のしるし』は今までのドラマにはなかった、演技と演出における新しい方法論を提示した作品だったと言えよう。
3位の『全裸監督』は海外ドラマ市場を意識した日本制作のNetflixドラマとして、やっと最初の一歩を踏み出すことができた記念碑的作品。複数の脚本家で一話一話を仕上げる脚本執筆を筆頭に、時間と予算をかけた制作体制とそこから紡ぎ出された物語は、今の国内地上波ドラマでは作れないものだろう。アダルトビデオ業界の描写や、実話モノゆえに黒木香の許諾をめぐる部分で曖昧な点が多いことなど、批判すべき点や課題は多いが、その賛否を含めて話題をさらったことは間違いない黒船的作品だ。おそらく視聴者よりも、俳優や監督といった作り手に、これから大きな影響を与えるのではないかと思う。
4、5位は、性的マイノリティを題材にしたドラマを選出。『きのう何食べた?』はよしながふみの同名漫画をドラマ化した作品だが、まず何よりこの作品を2007年から月イチで描いていたよしながの先見性に驚かされる。そんな素材の良さをしっかりと活かした無駄のない作りが成功の要因だろう。
脚本の安達奈緒子は、本作の他にも『サギデカ』(NHK総合)、『G線上のあなたと私』(TBS系)の三本の連ドラを執筆。どれもクオリティが高く、今年は彼女の年だったと言って過言ではない。