2019年の年間ベスト企画
年末企画:成馬零一の「2019年 年間ベストドラマTOP10」 演技と演出における新しい方法論
5位は、性的マイノリティを題材にした優れた作品であると同時に、今年盛り上がりを見せたNHKの深夜ドラマ枠「よるドラ」から一本を選出。完成度で観るなら、地下アイドルとそのオタクの内幕を描いた森下佳子脚本の『だから私は推しました』に軍配が上がるが、若さゆえの痛々しい手触りが鮮烈に焼き付いているのは『腐女子~』の方。物語の締め方や男性同士の恋愛を消費する腐女子の描写等、いくつか過不足はあるが、その不全感も含めて愛おしい作品だった。
6位は、「定時で帰る」と言えない職場環境を入り口に、日本人の会社観、労働観に切り込んだ会社モノの傑作。
7位は、反社、半グレという言葉が踊った2019年を象徴する特殊詐欺モノ。若者の中に内在するが表向きには無いことにされている高齢者に対する憎しみを可視化した問題作。新書を原案とするアプローチは今後増えるのではないかと思う。
8位は、平成の終わりを象徴する『なつぞら』と令和のはじまりを象徴する『スカーレット』という朝ドラ史の変遷として観ると興味深い作品。朝ドラヒロインに対して物語が優しくないのが成功要因。
9位は、テレ東の『孤独のグルメ』が切り開いた“ぼっちドラマ”の最先端。アニメの『ゆるキャン△』、芸人のヒロシがキャンプする様子をYouTubeで配信している「ヒロシちゃんねる」と比較しながら観ると面白い。キャンプやサウナといった、本来なら物語に成りえない題材をあっさりとドラマ化してしまうテレ東ドラマの手腕には脱帽する。
10位はSNS批判に焦点を当てた異色の学園ドラマ。旧来のドラマファンには受けが良くない日曜ドラマ枠だが、本作の他にも『あなたの番です』、『ニッポンノワールー刑事Yの反乱ー』といった話題作を次々と送り出している功績は無視できない。独立した作品というよりは、瞬間々々の面白さを追求したライブイベントという感じだが、マニア向けに閉じないためにも、こういった作品は国内ドラマに必要だと思う。
総論としては、この10本が同じ国内ドラマという枠で語れてしまうカオスな状況は、とても豊かだったと思う。
TOP10で取り上げた作品に関連するレビュー
・『いだてん』の“オチ”は私たちが現実でつけるしかない SNSで熱狂的に語る人が絶えない理由
・杉野遥亮が体現する、グレーの世界の不気味さ 『スカム』反社会的勢力と日常はすぐ隣にある
・性的マイノリティの問題を同性愛者の視点で描いた『きのう何食べた?』と『腐女子、うっかりゲイに告る。』
・『わたし、定時で帰ります。』ネット上で阿鼻叫喚の嵐! ドラマで描かれる“働き方”の変化
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■発売情報
『本気のしるし』DVD-BOX(4枚組)
2020年3月3日発売
価格:¥8,800(税抜)
<特典>
・オーディオ・コメンタリー(5話分予定)/森崎ウィン・土村芳・深田晃司監督(予定)
・メイキング(約15分予定)
・次回予告
監督:深田晃司
出演:森崎ウィン、土村芳、宇野祥平、石橋けい、福永朱梨、忍成修吾、北村有起哉
脚本:三谷伸太朗
原作者:星里もちる「本気のしるし」(小学館 ビックコミックス刊)
(c)星里もちる・小学館/メ~テレ