中国アニメーション急成長の理由を探る 背景には建国70周年が生んだ意識と国策の変化が
中国映画産業の巨大化と対外進出への懸念点
そして、次に中国が目指すのはソフトパワーの対外進出だ。5つの「立」の5番目を思い返してみよう。「国際的に際立つ」ことを目標にはっきりと掲げている。その成果は、今年早速2本のアニメーション映画のアカデミー賞候補という形で表れた。最終選考に残れるかはまだわからないが、十分に可能性はあるだろう。
まもなく世界最大の映画市場となる中国市場のこのような変化を、ハリウッドや日本映画産業は、どう向き合うべきだろうか。気になるのは、米中合作アニメーション映画『アボミナブル(原題:Abominable)』のトラブルだ。領有権問題となっている南シナ海の九段線が描かれていることでベトナムやフィリピンで上映中止となったこの作品は、中国市場で好成績を収めているだけでなく、米国でも週末興行成績で初登場1位を記録する大ヒットとなっている。LA Timesによれば、この作品は、米中のスタジオのコラボレーションによって「文化的に正確な描写」を可能にしたそうだ。(あくまで「cultural accuracy(文化的正確さ)」であって、政治的正確さとは書いていないが)
今後、中国映画産業が対外進出を推し進めていく中で、このような「何らかの意図」がしれっと映画に盛り込まれる可能性は今後も捨てきれない。
中国アニメ市場は市場としてだけでなく、製作地としても欧米のスタジオから注目を集めており(今、中国のアニメーション産業に注目が集まる理由。)、今後合作作品はどんどん増えていくはずだし、純国産作品の海外進出も進むだろう。この巨大市場の動向は、作品の質と量、そして政治的意向の面でも目が離せない。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。