Kis-My-Ft2 北山宏光の“愛されるプレイヤー”としての資質 『ミリオンジョー』と主演舞台での挑戦
ミステリードラマや心理サスペンスの定石のひとつに「主人公と観客は真実を知っているが、他の登場人物はそれを知らない」という構成がある。Kis-My-Ft2の北山宏光が主演を務める深夜ドラマ『ミリオンジョー』(テレビ東京系)はまさにそんな作品だ。
主人公の呉井聡市は「週刊少年グローリー」の編集者。国民的人気漫画「ミリオンジョー」の作者・真加田恒夫(三浦誠己)を担当しているが、ある日真加田が急死してしまう。真加田からの「心臓が痛い」という電話を無視したことが彼の死に繋がったと自責の念に駆られる呉井は、真加田が遺した創作ノートを使い、自分たちで「ミリオンジョー」の連載を続けようと作画チーフアシスタントの寺師(萩原聖人)に提案。古くからの友人・岸本(深水元基)に頼み、真加田の死体を山に埋めた呉井と寺師は“ねつ造ミリオンジョー”の製作に着手するーー。
冒頭から北山演じる呉井のチャラけぶりが凄い。プリンになった金髪スタイルによれよれのTシャツ、喋り方も姿勢もダルさ満載。担当作品「ミリオンジョー」への愛はなく、いかに手を抜いて仕事をするかを考えながら適当に生きている編集者。そんな絵に描いたようなチャラ男がなぜ「作者に成り代わって国民的漫画の連載を続ける」と決めたのか。そこにこのドラマのひとつの“軸”がある。
その“軸”とは、呉井も少年時代は漫画家を目指し、挫折の末に編集者になったという経歴と、胸の深い部分に秘めた漫画へのアツい思い。真加田に成り代わって彼の作品を世に送り出そうとする呉井の根底にあるのは、金銭への執着や名声の渇望ではなく、真加田の死後に真剣に読んだ「ミリオンジョー」への尊敬の念とクリエイターとしての覚醒だ。この“軸”があるからこそ、視聴者はとんでもない手を使ってピンチを切り抜けていく呉井に気持ちを寄せてドラマに没頭できるのである。
呉井役の北山はチャラくいい加減な面と、あきらめた夢に再び出会ったピュアな心の表現、ピンチに陥りながらも湧き出るアドレナリンを抑えきれない演技を的確に切り替えながら役を構築。俯瞰で見れば呉井はとんでもない人間であるものの、どこか憎めず、彼が窮地に追い込まれるたびに手に汗を握りながら応援してしまうのは、北山自身が宿す“愛され力”にも関係があると感じる。
北山宏光は“愛されるプレイヤー”なのだ。
特にそれを強く感じたのは2014年にオンエアされたドラマ『家族狩り』(TBS系)での演技。この作品で彼は主人公の元教え子で、電気工事の仕事に就く青年・鈴木渓徳を演じていたのだが、その何とも言えない明るい“後輩感”がドラマ全体に流れる暗く重い空気を引き上げていた。