『HiGH&LOW THE WORST』評論家座談会【後編】 「誰もが琥珀さんやコブラになれるわけではない」

『HiGH&LOW THE WORST』評論家座談会【後編】 「誰もが琥珀さんやコブラになれるわけではない」

 『HiGH&LOW』シリーズのスピンオフ映画『HiGH&LOW THE WORST』が大ヒット公開中だ。男たちの友情と熱き闘いをメディアミックスで描く『HiGH&LOW』シリーズと、不良漫画の金字塔『クローズ』『WORST』がクロスオーバーした同作は、川村壱馬をはじめとしたTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEのメンバーらが出演することでも注目を集め、映画に先がけて放送されたテレビドラマ『HiGH&LOW THE WORST EPISODE.0』(日本テレビ系)も大いに話題となった。

 リアルサウンド映画部では本作を掘り下げるために、ドラマ評論家の成馬零一氏、女性ファンの心理に詳しいライターの西森路代氏、アクション映画に対する造詣の深い加藤よしき氏の3名による座談会を行った。これまでのシリーズをおさらいしつつ川村壱馬ら新キャストの魅力について熱く語った前編に続き、後編では、LDHならではのアクションシーンの作り込みや現代的テーマについて議論。自他ともに認める“HiGH&LOWバカ”たちの座談会の模様を、余すことなくお届けする。(編集部)

加藤「『HiGH&LOW』は安いシーンがひとつもない」

加藤よしき(以下、加藤):映画『HiGH&LOW THE WORST』、アクションが本当にすごかったですね。ドニー・イェンの映画のように総合格闘技的な要素を入れつつ、それをさらにアップデートしたようなスタイルでした。殴りに行って打撃を何発か入れて、組み付いて体勢を崩すという。「HiGH&LOW」のアクション監督の大内(貴仁)さんはドニー・イェンのところで仕事していた人なので、納得です。そこによりアクロバットなカメラワークを取り入れることでドニー・イェンの作品ともまた違う手触りになっていました。

西森路代(以下、西森):韓国のリュ・スワン監督の作品を観ているとジャッキー・チェンの映画で見たことのあるようなアクションに更にそこから新しい要素を付け加えて、いい意味でしつこくやってくれてて面白いなと思ったことがあったんですが、『HiGH&LOW』のアクションにもそういうところがありますよね。大内さんは、香港のアクションの現場にいたわけだし、古典の型としてあるものを認めた上でアイデアを重ねるというか、すごいところを取り込んでさらに上回ろうとするのが良いし、そうじゃないとあんなに高められないと思います。

加藤:僕もそこがLDHのつくるコンテンツで好きなところですね。「今までにないものをつくろう」「誰かの模倣はダメだ」と世の中では言われがちですけど、実は全然そんなことはない。まずはすごいものを認めて「あれをやろう」と考えて、それを真似する。でも真似したって同じものはつくれなくて、そこで出てくるちょっとしたブレみたいなものが個性なんだと思うんですよ。LDHの場合はアクションもそうだし、ファッションやダンス、歌も、昔のヒップホップや今の最新の洋楽シーンのすごさを認めた上で、それを自分たちなりにどうするかというのをやっている。好感が持てますよね。

西森:これまでは、わりとやりにくかったことですよね。日本は、その昔は技術でもなんでも、いろんなことが欧米のモノマネだと言われた過去があったので、それを払拭したくて、その後は自分たちにオリジナリティがあるというのがアイデンティティになっていったし、アジアのエンタメの中でもちょっと特殊な立ち位置で相互にアイデアを交換するということがあまりなかったということもありますから。

加藤:そういうのを一度取っ払って、「海外のあれをやってみようよ」ってやってるうちに「ちょっと違ってきてるけど、それはそれでいいよね」となっていく。こちらもドニー・イェンと仕事をしてきた谷垣健治さん(アクション監督/スタント・コーディネーター)が、「映画秘宝」9月号で映画『るろうに剣心』の話を書いていたんですよ。『るろ剣』のアクションでは足元が大事だから、不安定な普通のわらじじゃなくて、動きやすい市販のエア足袋やスパイク足袋を買ってきて、それを改造して普通のわらじに見せるみたいなことをやろうとしたそうなんですが、するとベテランの人から「昔から普通のわらじでやってきてたんですけど」みたいな感じで難色を示されてやりづらかった、と。最近だと普通に通るようになったらしいんですが、谷垣さんの発想には柔軟性が感じられますよね。LDHも、柔軟性がないと鬼邪高をあんなに「『クローズ』やないか」っていうビジュアルにはしないですからね。

西森:以前HIROさんにインタビューしたとき、「何かと何かを繋げるときには必ず新しいストーリーが生まれるはずで、それが線になって輪になるという世界観が大好きなんです」(参考:LDHのルーツは、子どものころの異種格闘技――EXILE HIROが考えるブランド価値の上げ方)と言ってました。だから自分たちのオリジナルの作品に、途中からマンガをかけ合わせたりできるんでしょうね。それって本当にすごいことだと思います。

加藤:かなり勇気がいることだと思います。そういう柔軟性みたいなものはハイローの最初の時点からずっとあって、『THE WORST』でも感じられますね。

西森:自分たちが「最初からすごかった」と思っているんじゃなくて、「これからももっとすごいものになるんだ」みたいな気持ちがあるからこそかもしれません。

成馬零一(以下、成馬):撮り方自体にも手間がかかってましたよね。今テレビドラマを観ていると、「モデルハウスをそのまま使ったのかな」と思うようなツルツルできれいな家が平気で出てきたりするじゃないですか。そこでひと頑張りして部屋を汚すと、リアリティが出て作品として一段回上がる。「HiGH&LOW」はそれを全部やっているんですよね。

加藤:美術と衣装、撮影、照明を見ると、お金がかかってるかどうかがわかりますよね。「HiGH&LOW」は安いシーンがひとつもない。「これはそのへんの野原で撮ったな」とか「あ、新宿のあの場所だ」とか、そう思うシーンが全然ないんですよ。

成馬:東京でリアルな風景を使っていいシーンを撮るのは、もう不可能じゃないですか。新海誠の『天気の子』はアニメだからそれができている。あれを実写で描こうと思ったら相当厳しいな、と思っていたのですが、『THE WORST』を観て「こういう方法もあるんだな」と思いました。団地のシーンなんて、国内の実写でもまだ撮れるんだな、って。

西森:画(え)の撮り方もいいですよね。映画のスチール写真として雑誌でも使いがいがある。Auditionblueという雑誌で『THE WORST』特集のライターをやったんですが、その扉に「いくぞテメエら!」なシーンの、楓士雄たちが河原を走っていく姿が見開きで使われていて、それだけで興奮できるくらいの画の力がありました。たぶん、鳳仙、鬼邪高、牙斗螺、違う色みを感じます。衣装の違いもあるだろうけど。

加藤:暗闇とそこに差し込む光の使い方がすごくうまい。轟が出てくるシーンなんて、やたらとかっこいいじゃないですか。『THE WORST』でいちばん強い人は今のところ村山と轟なので、“強キャラ”感を出さないといけないからだとは思うんですけど、若干のくどさを覚えるくらい、あまりにもかっこいい(笑)。「HiGH&LOW」を知らない人が観ても「とんでもなく強いやつが出てきたんだな」というのは伝わる。あれは「HiGH&LOW」の強みで、すごくいいと思います。

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

音楽記事ピックアップ