『HiGH&LOW THE WORST』評論家座談会【後編】 「誰もが琥珀さんやコブラになれるわけではない」

『HiGH&LOW THE WORST』座談会【後編】

西森「村山を第二の人生に向かわせようとする映画」

成馬:しかし大蛇兄弟とか団地の幼馴染グループは、今後「HiGH&LOW」シリーズが進んだときに、どうなっていくんでしょうね。本編には合流しないんじゃないかなと勝手に思っているんですが。あと、SWORD地区にも普通の学校があるんだ、って発見がありました。

西森:進学校やお嬢様学校がありましたね。

加藤:でもドラマのシーズン1でもノボルがいましたからね。「頭はいいけど不良の子たちとも対等にしゃべれる」というキャラクターと構図が好きなんでしょうね。

西森:頭がいいことって、あの世界ではすごい責任重大で、表の社会で頑張って幼馴染たちの住む世界を守っていこう背負っていこうという役割が期待されてるんですよね。

成馬:それと、村山がどういう道に進んでいくのかというのも今回の重要なテーマでしたね。『FINAL MISSION』でも『DTC』でもそうでしたが、「彼らが現実にどう着地するのか」ということを繰り返し描こうとしているのは感じます。誰もが琥珀さんやコブラになれるわけではない。ある意味では成功しなかった男の子が、どう着地するのか。特に『DTC』以降、そのテーマが大きくなってきている気がします。

西森:統率を取る一人の人物以外は全員落伍者、みたいになっちゃいけないし。村山を第二の人生に向かわせようとする映画でしたね。村山が『クローズ』の世界で焼き鳥焼いてる未来もあるのかな。

成馬:テキヤの達磨一家と競合しそう(笑)。

加藤:僕は村山さんについては、描くならこういう感じの落とし所だろうな、と納得感がありました。仕事を見つけてみんなでバイクを買って、たまの休日に遊びに行くんでしょうね。そこにLDHの生真面目さも感じるんですよ。「Love, Dream, Happiness」って言ってるくらいだから、何もかもうまくいってハッピーエンド、で終わってもいいはずなんですよ。村山ちゃんが永遠に高校生をやっていく終わり方だっていいじゃないですか。フィクションなんだから。でもそうではなくて、モラトリアムに別れを告げて大人になる。「それでも人生は続いていくんだよ」ということを描かないといけない、と考えている生真面目さがある。今のEXILEのみなさんが、パフォーマーを勇退されたあとに、それぞれの道を見つけて活動しているのと重なります。

西森:やっぱりLDHっていうのは、パフォーマー、ダンサーが多い集団だから、HIROさんはじめ、アスリートのようにある年齢になるとパフォーマーは引退して、セカンドキャリアも持つという世界ですよね。だから、この前リアルサウンド ブックでも取材させてもらいましたが、30代後半のプレイングマネージャー的な人たちは、LINEグループがあったり、会うと自然とビジネスの話にもなるという(参考:橘ケンチ×秋山真太郎が語る、“紙の本”の色褪せない魅力)。そういう視点が、今回の『THE WORST』からもうかがえました。それと、GENERATIONSが今年出したシングルの『DREAMERS』という曲のビデオも、メンバーそれぞれがいろんな職業について地に足つけながら生きているというコンセプトで、そこもつながってみえましたね。

GENERATIONS from EXILE TRIBE / DREAMERS (Music Video)

加藤:その視点はこれまでの『クローズZERO』シリーズにはなかったものです。「HiGH&LOW」自体はすごくファンタジーなのに、そこの価値観だけはすごく現代的で地に足が着いている。

成馬:「HiGH&LOW」シリーズが始まった当初は、そういう日常性の部分を山王連合会が担っていたはずなんだけど、物語がどんどんアクションに特化していってそこが失われていったわけじゃないですか。『FINAL MISSON』まででそこを突き詰めすぎた反動みたいなものもあるのかもしれないですね。だから『THE WORST』は日常性を手放さないようにしている。現実への着地があるから、世代交代が描けるというのもありますよね。上の世代が詰まっていると、ずっと下の世代が上がってこられないから。

西森:山王でも、今回からケン(岩谷翔吾)とヒカル(山本彰吾)がフィーチャーされてて、リアリティのある親しみやすいタイプが山王では後を継いでいくのだなと思いました。

加藤:その循環を起こそうとしている感じはすごくありますね。実際、今回の主役である川村壱馬くんには、その循環に耐えうるだけの力がありますから。

(取材・構成=斎藤岬)

※高橋ヒロシの「高」は「はしごだか」が正式表記

■公開情報
『HiGH&LOW THE WORST』
10月4日(金)全国ロードショー
企画プロデュース:EXILE HIRO
監督:久保茂昭
アクション監督:大内貴仁
脚本:高橋ヒロシ/平沼紀久、増本庄一郎、渡辺啓
出演:
【鬼邪高校・全日制】川村壱馬、吉野北人、福山康平、鈴木昂秀、龍、佐藤流司、うえきやサトシ、神尾楓珠、中島健、前田公輝
【鬼邪高校・定時制】山田裕貴、鈴木貴之、一ノ瀬ワタル、青木健、清原翔、陳内将
【鳳仙学園】志尊淳、塩野瑛久、葵揚、小柳心、荒井敦史、坂口涼太郎
【希望ヶ丘団地 幼馴染】白洲迅、中務裕太、小森隼、富田望生、矢野聖人
企画制作:HI-AX
配給:松竹
製作:『HiGH&LOW』製作委員会
(c)2019「HiGH&LOW THE WORST」製作委員会 (c)高橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX
公式サイト:https://high-low.jp/movies/theworst/

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