深田恭子の何よりも強い“鈍感力” 『はじこい』物語に潜む3つの注目ポイント

『はじこい』物語に潜む3つの注目ポイント

 彼女はわりと“答え”を無視する。作者の気持ちに寄り添うことが得意な現代文の先生であるにも関わらず、山下の解答はそっちのけで、由利が度々連呼している「東大に受かって言いたいこと」の中身を気にすることもしない。自分と同じ気持ちを味わってほしくないという母親の心情をなんとなく理解しながらも、「それには回答できない」と呟く。それはもしかしたら大人の世界を十年以上生きてきた彼女が得たある種の処世術なのかもしれない。自分にとって「一番大事なこと」である「由利を東大に合格させること」を死守するために、誰かにとっての一番大事なことを聞かない、聞き入れないという鈍感さは、ある意味、誰よりも頑なで、強い。

 「大人って何?」「幸福って何?」「『梓弓』の女の答えは?」「現代文の問題の解き方は?」等、受験勉強の一貫として繰り出される問題は、絶妙に登場人物たちの恋模様や人生とリンクして複雑に絡み合う。明確だったはずの答えは、教科書もなければ正解もない大人たちの社会に解き放たれた途端、要領を得ない、歯切れの悪いものに代わってしまう。それでも、そんな不確かでいい加減な、“大人の世界”が悪くないように思えるのは、なんとも穏やかな優しさに満ち溢れた、登場人物たちのやりとりがあるからだろう。

 彼らは、互いが「幸せ」で「元気」であるかということを頻繁に確かめ合う。その人が幸せなら自分も幸せで、「元気?」と問いかけられたらそれだけで元気になれる。たとえ20年間の片想いだろうと、“師弟愛”だろうと、簀巻きにされようと、ただ一緒にいることができるだけで、幸せそうに微笑んでしまう。それが、順子含めて雅志(永山絢斗)、由利、山下の4人なのである。それがもしかしたら、このドラマでひたすらスルーされ、主人公に見て見ないふりをされ続けている事柄、つまりは主題であるところの「恋」というものの定義なのかもしれない。

 さて、美和(安達祐実)のように呪いを幸運に即座にシフトチェンジすることもできず、何かと不運続きな、優しすぎるエリート・雅志を応援せずにはいられないが、ますます攻めの姿勢に入った山下の行動も見逃せない。新キャラ・高梨臨演じる塾講師の存在と、同じ思いで行動してきたはずの由利と順子の間に生じるだろう小さな感情の食い違いが、物語にどんな波を引き起こすのか。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
火曜ドラマ『初めて恋をした日に読む話』
TBS系にて、毎週火曜22:00~
出演:深田恭子、永山絢斗、横浜流星、中村倫也、安達祐実、石丸謙二郎、鶴見辰吾、生瀬勝久、檀ふみ、高橋洋、皆川猿時
原作:『初めて恋をした日に読む話』持田あき(集英社『クッキー』連載)
脚本:吉澤智子
プロデューサー:有賀聡(ケイファクトリー)
演出:福田亮介ほか
製作:ケイファクトリー、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/hajikoi_tbs/

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