『ヘレディタリー/継承』音楽がもたらすエレガンス  ポピュラーミュージックと映画音楽は更に接近

『ヘレディタリー/継承』音楽がもたらすエレガンス

 最後に個人的なサウンドトラック賞を挙げるとすれば、アリ・アスター『ヘレディタリー/継承』の音楽を手がけたコリン・ステットソンだ。あまり知られていないミュージシャンだと思うが、ボン・イヴェールやアーケイド・ファイアなどインディ・ロックの客演でも知られるサックス奏者/作曲家で、ソロ作ではアヴァンギャルドで獰猛なバリトン・サックスの演奏や荘厳でダークなオーケストラが聴ける。うつなどメンタル・ヘルスの問題や家族のコミュニケーション不全を執拗に描いていた『ヘレディタリー/継承』だが、ステットソンが鳴らす重々しい暗黒は映画の途方もない恐怖や陰鬱さを存分に後押ししていた。が、ゆったりとしたカメラワークも相まって、それ以上に感じられるのがある種のエレガンス、気品のようなものである。映画が数十年後のクラシックとなり得るような威厳を讃えていたのは、音楽によるところも大きいだろう。

『サスペリア』(c)Courtesy of Amazon Studios

 2019年は早々にレディオヘッドのトム・ヨークが映画音楽をはじめて手がけたルカ・グァダニーノ版『サスペリア』があるが、これもまた、彼のソロ・ワークやレディオヘッドのエモーションとじゅうぶんに通じるものである。というより、彼の音楽が映画の感情面をかなりの部分で引き受けていると言えるものであった。ポピュラー・ミュージック・フィールドの作家が手がけるサウンドトラックは、いまや飾りものであることに満足せず紛れもない映画音楽として鳴っている。この動きはまだまだ続いていくだろう。

■木津毅(きづ・つよし)
ライター/編集者。1984年大阪生まれ。2011年ele-kingにてデビュー。以来、各メディアにて映画、音楽、ゲイ・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』。 

■公開情報
『へレディタリー/継承』
全国公開中
出演:トニ・コレット、ガブリエル・バーン、アレックス・ウォルフ、ミリー・シャピロ、アン・ダウド
脚本・監督:アリ・アスター
製作:ケビン・フレイクス、ラース・クヌードセン、バディ・パトリック
撮影監督:パヴェウ・ポゴジェルスキ
編集:ジェニファー・レイム、ルシアン・ジョンストン
音楽:コリン・ステットソン
ミニチュア模型・特殊メイク:スティーブ・ニューバーン
提供:ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ファントム・フィルム 
原題:Hereditary/2018年/アメリカ映画/ビスタサイズ/127分/PG-12
(c)2018 Hereditary Film Productions, LLC
公式サイト:hereditary-movie.jp

『サスペリア』
2019年1月、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:ルカ・グァダニーノ
音楽:トム・ヨーク
出演:ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントン、ミア・ゴス、ルッツ・エバースドルフ、ジェシカ・ハーパー、クロエ・グレース・モレッツ
配給:ギャガ
(c)Courtesy of Amazon Studios
公式サイト:https://gaga.ne.jp/suspiria/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる