トムクル骨折、ニコケイブチギレ、ソン・ガンホ巻き込まれ……2018年“おじさん映画”を振り返る

2018年の“おじさん映画”を振り返る

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

 しかし、こうした幾多の名作おじさん映画を抑え、圧倒的な貫禄を見せつけたのがトム・クルーズ主演『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』。シリーズを追うごとにアクション色とトムクルさんの体張ってます感が増してきたシリーズだが、今回は完全に限界を突破。トムクルさんは56歳にして、とにかく走る、跳ぶ、戦う。最後のヘリコプター・チェイスでは本当に操縦をしており、テンパり具合は演技なのかマジなのか不明である。恐ろしくスリリングな映画だが、観ているうちに物語の主人公「イーサン・ハント」を心配しているのか、生身の俳優「トム・クルーズ」を心配しているのか分からなくなってくるのも事実だ。本当に足を折ってしまった逸話も込みで、2018年、こんなに頑張ったおじさんはいないだろう。それでいて若手のキャラもきちんと立たせ、最後は伝家の宝刀トムクル・スマイルで映画を〆る。おじさん映画として完璧だと言っていいだろう。

 他にも家族のために七転八倒するヒーローを描いた『アントマン&ワスプ』。自警団モノの金字塔をリメイクした『デス・ウィッシュ』。失うものが何もない男たちのバカ騒ぎ具合が光る『ザ・プレデター』。終始目が死んでいるコンビが中間管理職&フリーの立場で苦しみもがく『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』も忘れ難い(今年はジョシュ・ブローリンの当たり年)。2018年のアメリカは、充実の1年だったと言えるだろう。

 しかし、「おじさん映画」に関して言えば、アメリカをも凌ぐ“聖地”が存在する。毎年のように傑作おじさん映画を輩出し、おじさん映画を撮らせたら世界でもトップ・レベルの国……韓国だ。今年も話題作が多かった韓国映画だが、今回は3人のおじさん俳優をピックアップしたい。

『殺人者の記憶法』(c)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

 まず1人目は、行き過ぎた役作りで知られるソル・ギョングだ。今年、日本ではギョングが出ている映画が3本公開されている。『1987、ある闘いの真実』(本国では2017年公開)、『殺人者の記憶法』『名もなき野良犬の輪舞』。ギョングはそれぞれで全く別人になっており、その変貌ぶりが凄まじい。『1987』はまだ通常営業という感じだが、『殺人者~』ではアルツハイマーの老人殺人鬼という役柄に合わせて激やせを敢行。思わず「誰!?」と驚くほどの、骨と皮だけの老人スタイルに変身した。その上で若手殺人鬼と投げ技主体の格闘戦を展開するのだから、もはや演技というより人体の神秘レベルである(あんなに痩せたり太ったりして内臓は大丈夫か)。そんな老人スタイルから一転、『名もなき~』ではスーツでビシっと決めたギンギラのヤクザに変身。爆笑しながら大乱闘を繰り広げる荒々しさと、若いヤクザに惚れ込み堕ちてゆく儚い魅力も存分に魅せてくれた。

『1987、ある闘いの真実』(c)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

 2人目はユ・ヘジン。『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』『コンフィデンシャル 共助』『1987、ある闘いの真実』(全て本国では2017年公開)の3本の出演作が公開されているが、その全てで完璧な仕事をしている。北朝鮮と韓国の刑事が事件解決のためにバディを組む『コンフィデンシャル』では、間が抜けているが、情に厚くて正義感の強い理想の“愛され兄貴”を好演。『タクシー運転手』でも、同じく窮地に立たされた主人公らを救う義に厚い男を演じた。そして『1987~』では民主化運動に携わるも、当局によって苛烈な拷問を受ける名もなき市民を熱演。家族と正義を天秤にかけられ、嗚咽と共に決断を下すシーンは彼のベストバウトだろう。

『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(c)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.

 そして3人目は、言わずと知れた韓国の国民的俳優、ソン・ガンホ。ユ・ヘジンも出ている『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』に主演し、鮮烈な印象を残した。ひょんなことからガンホ演じる平凡なタクシー運転手が、軍隊がデモ隊を虐殺した「光州事件」に巻き込まれる物語だが、彼はここでキャリア屈指の名演を見せてくれた。娘のために何とか生活を支えようと頑張るガンホ、儲け話を聞いて飛びつくガンホ、おどけるガンホ、そして自分の無力さに打ちひしがれながらも、正義を成すために一世一代の決断を下すガンホ……。あらゆるガンホが見れる傑作だ。この映画を成させているのは間違いなくガンホの魅力である。彼が演じきったのは、ごく平凡なおじさんであり、それゆえに誰もが自分を投影できる存在だ。まさに国民的俳優の面目躍如である。

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