韓国の“兄貴映画”に新たな金字塔! 『コンフィデンシャル 共助』が映像化した“愛され兄貴”の概念
韓国には親しい年上の男性を「兄貴」と呼ぶ文化がある。いわゆる義兄弟だが、日本のヤクザ的な兄貴/舎弟よりもっと気軽なノリだ。こういう文化的な背景が韓国映画の中で1ジャンルを形成した。兄貴映画である。私が勝手にそう呼んでいるだけだが。
正反対の男2人が登場し、何らかの事件に挑む中で、その関係性を深めていく。このような映画はバディ・ムービーとも言うが、兄貴映画の場合はここに「義兄弟」という関係性が加わる。バディの場合、2人は対等な立場にあるが、兄貴映画では兄貴を兄貴たらしめる要素、つまりは兄貴らしさを見せなければならない。この点がバディ・ムービーと一線を画す。今日まで韓国は綺羅星の如き兄貴映画を世に放ち、理想の兄貴像を更新してきた。2000年『JSA』、2010年『義兄弟 SECRET REUNION』、2013年『新しき世界』……どれもこれも素晴らしい兄貴を楽しめる名作だ。そして2018年、新たな兄貴映画の金字塔が現れた。『コンフィデンシャル 共助』(17年)である。
あらすじはいたってシンプル。妻を殺された北のエリート刑事・チョルリョン(ヒョンビン)が、南の人情派刑事カン(ユ・ヘジン)とコンビを組んで、妻の仇でもある犯罪者の逮捕に挑むというもの。チョルリョンはロシアの格闘術“システマ”を体得しており、銃火器の扱いも一流。躊躇いなくビルの窓から飛び降り、トイレットペーパーでヤクザを壊滅させる人間凶器だ。一方のカンは体力に衰えが見える普通のオッサンである。ちなみにチョルリョンを演じるヒョンビンは遠近感が狂うほどスタイルのいい男前、一方のユ・ヘジンは中肉中背のファニー・フェイス。2人は何から何まで正反対だ。どう見ても頼りになるのはチョルリョンであって、一見するとカンは足手まといにも見える。実際カンはズッコケ野郎であり、登場シーンから犯人を逃してしまう体たらくだ。最初に挙げた兄貴映画の傑作に登場する兄貴は、いずれも弟分より人間的に成熟していたり、ここ一番で機転が利いたりと、弟分より上だと示す部分があった。カンにはそういった要素が薄い。 しかし、それでもカンは間違いなく兄貴であり、非常に完成度が高いキャラクターだ。その魅力を一言で表すなら“愛され兄貴”。カンの最大の特徴はひたすらに善人であることだ。彼は安月給に愚痴は言うが、誰に対しても優しく、いざとなれば命を張れるほど正義感も強い。チョルリョンがスタイリッシュでド派手なカーチェイスを起こすのに対して、カンはそのカーチェイスに巻き込まれた子供を助けるため決死の行動に出る(このシーンは2人の違いを見せる名シーンだ)。その愚直さと人間臭さは、観客に「この人だけは不幸になってほしくない」と思わせる魅力に繋がっている。まさに愛され系と呼ぶのが相応しい。その愛され兄貴パワーによって心を開いたチョルリョンが、クライマックスで見せる少年のような表情も胸を揺さぶる。