『半分、青い。』はなぜ“新しい”と呼ばれた? 恋愛ドラマの名手・北川悦吏子がもたらした革新
連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『半分、青い。』(NHK)が完結した。左耳が聞こえない楡野鈴愛(永野芽郁)の半生を描いた本作は、大きな反響を呼ぶヒット作となったが、同時に激しい賛否を巻き起こした。
脚本は北川悦吏子。『ロングバケーション』(フジテレビ系)や『ビューティフルライフ』(TBS系)など、90年代から00年代初頭にかけて、数々のヒット作を生み出してきたベテラン脚本家だ。近年は連続ドラマの執筆から遠ざかっていたが、2016年に久々の執筆となった連続ドラマ『運命に、似た恋』(NHK)を経て、満を持しての朝ドラ登板。それだけに放送当初から攻めた姿勢の新しい朝ドラとなった。
本作は朝ドラとして何が新しかったのか? まず一番に挙げられるのは、ヒロイン・楡野鈴愛の人物造形だろう。鈴愛は、小学三年生の時に左耳が聞こえなくなる。物語はそんなハンデキャップを持つ鈴愛が健気にがんばる物語になるかと思いきや、負けず嫌いで想像力が豊かな鈴愛は、創意工夫で状況を切り開いていく。高校卒業後は東京で少女漫画家の秋風羽織(豊川悦司)の元でアシスタントとして働き、やがてプロの漫画家としてデビュー。しかし、やがて漫画は打ち切りとなり、自分に才能がないことを悟った鈴愛は、自分の意志で漫画家を辞める。
朝ドラでは、ヒロインが仕事を通して成長していく過程が描かれるが、仕事を辞めるのは、結婚(母親)と仕事のどちらかを選ばなければいけない時である。そして多くの場合、ヒロインは仕事をやめて母になることを選ぶのだが、鈴愛は、才能がないという身も蓋もない理由で漫画家を辞めてしまい、その後、仕事を転々とする。
恋愛の描き方も新しかった。幼なじみの萩尾律(佐藤健)に特別な運命を感じながらも、鈴愛は別の男性と恋愛しては失恋し、律もまた別の女性と結婚してしまう。ドラマでは意外な展開だが現実にはよくあることである。さすが恋愛ドラマの名手・北川悦吏子だ。
漫画家を辞めた鈴愛が、100円ショップで働いている時に知り合った、年下のダメ男・涼次(間宮祥太朗)と勢いで結婚してしまう展開もリアルだが、そんな涼次が映画監督という夢を諦めきれず復帰した時に離婚を告げるという展開には驚かされた。
朝ドラヒロインが抱える優等生的役割をいかに脱却するかというのは、2010年代の朝ドラが抱えた大きなテーマだったが、そういう葛藤自体を粉々に破壊して終わらせたのが本作だと言えよう。