脚本・北川悦吏子が明かす、『半分、青い。』執筆の苦悩と喜び 「才能を毎日試されているようでした」
4月2日からスタートしたNHK連続テレビ小説『半分、青い。』が9月29日に最終回を迎える。主人公・鈴愛(永野芽郁)の半生を追いかけながら、幼なじみの律(佐藤健)をはじめ、たくさんの愛すべきキャラクターたちが描かれてきた本作。“これまでにない朝ドラ”として、この半年間、多くの視聴者の心を揺さぶり続けてきた。
リアルサウンド映画部では、全156回の脚本を執筆した脚本家・北川悦吏子にインタビュー。初めて挑戦した朝ドラの苦悩と喜び、物語を体現した出演者たちへの思いなど、じっくりと語ってもらった。
15分×156回をどう見せきるか
ーー初の朝ドラとなりましたが、書き終えた後の率直な感想からお話いただけますか。
北川悦吏子(以下、北川):今は『あしたのジョー』の矢吹丈のように、「まっ白な灰に…」という気分です。本当に魂が抜かれてしまった感じで(笑)。朝ドラは経験された脚本家の先輩の方々から「もっともつらい」と漏れ伝え聞いてはいたのですが……。身体の弱い私が「やりたい!」という気持ちだけで突入してしまったんだなと、書き始めてから気付きました。本作を書き上げることができたというのは奇跡だったなと今は思います。15分×156回という朝ドラの枠組みは、1時間の連続ドラマ、およそ2時間の映画とはまったく違います。1年半をかけて執筆に取り組みながら、自分自身どんどん新しい技を編み出していく楽しさもありました。
ーー北川さん渾身の“新しい技”を挙げるとすれば?
北川:渾身のアイデアとしては、岐阜犬の存在かもしれません。岐阜犬を通して和子さん(原田知世)と律が最後の会話をするのは、最初に考えていたものではないんです。鈴愛が最終的な発明を行う前の、最初の一歩として岐阜犬を思いつきました。亡くなった仙吉さん(中村雅俊)の最後の言葉をどう花野(山崎莉里那)から聞き出すか。花野と一緒に仙吉の言葉を聞いていたのがココンタ(花野が持っているぬいぐるみ)であり、そこに岐阜犬をなんとか結びつけようと。一方で、和子さんが死に向かっていくストーリーもある。そのときに、岐阜犬の声を担当する和子さんと、律の最後の会話ができるんじゃないかと思いつき、興奮したのを覚えています。15分をどう見せきるかというのは、書いている途中で何が思い浮かぶかが勝負なんです。あらかじめ計算は仕切れない。計算してしまうと、つまらない。15分の中で、話の中心となる人物を突然変えてみる手法もありました。具体的に言うと、仙吉さんが草太(上村海成)と「真夏の果実」を歌うシーンがある回です。メインのストーリーは、晴さん(松雪泰子)が秋風ハウスにいる鈴愛の元を訪れてマア君(中村倫也)との恋話を聞く、というものでした。晴さんがいない、ならば楡野家には女性がいなくなって男性しかいなくなる、じゃあここで仙吉さんから草太に何かを伝える描写ができないか、とその回を書いている途中に思いついたんです。
ーー全156話、どう見せきるかを考えるのは本当に大変なことだと感じます。
北川:1話につき、当てられる時間が3日しかないんです。こういったアイデアが自然に湧いてこなかったら私はどうなるんだろうと、1日目、2日目に追い詰められて……。漫画のネームが描けなくなった鈴愛が、甘い物を食べるだけ食べてアイデアをひねり出そうとするシーンがありましたが、私も同じようなことをやったんです。そうすると頭の中のエネルギーが補充されるのか、「ハッ!」と思いついて書く。なんとか終わった……と思ったのもつかの間、また次の回がやってくる。その繰り返しの日々は、精神的な拷問のようでした。どこかで自分なりに気を抜いてしまえばよかったのかもしれないのですが、毎話毎話設定したハードルは飛び越えたいと思って臨んでいました。いろんなアイデアを考える楽しさはありましたが、3日に1本というペースは本当に尋常ではなかったです。自分にどれだけの才能があるか、毎日試されているようでした。
ーー通常の連続ドラマにはない、朝ドラならではの特徴が「ナレーション」の存在です。ナレーションの存在は、脚本を執筆するにあたりどんな効果がありましたか?
北川:ナレーションが使える、それはどこにでも視点を飛ばせるということです。一般的なナレーションは、登場人物たちは違う次元にいる、いわゆる神の視点なわけですが、本作の場合は物語の中にいた廉子さん(風吹ジュン)がそのままのキャラクターとして担当しています。だから、「この先は私もまだ知らないんです」と突然言ってしまったり、遊びがあるんです。視聴者の視点にときに寄ってみたり、ときに誘導したり、さまざまな仕掛けを作ることができました。