佐藤健演じる章は現代を生きる私たちの姿だ 『義母と娘のブルース』が描く仕事との向き合い方

『ぎぼむす』が描く仕事との向き合い方

「章、これ本当にうまいと思って作ってるのか? これ食ってほしいと思って作ってるか?」

 ああ、パンが食べたい……きっと多くの視聴者にとって胃袋を刺激される飯テロ回となった『義母と娘のブルース』(TBS系)第8話。これまで良一(竹野内豊)とのギソウケッコンから本物の夫婦愛を見つけ出し、血の繋がらない娘・みゆき(上白石萌歌)との揺るぎない親子愛を築いてきた亜希子(綾瀬はるか)が、次に導き出したのは本質的な仕事の面白さだった。それこそ元キャリアウーマンの亜希子が、みゆきに親の背中を伝えたいと思っていたこと。そして、ベーカリー麦田の店長・章(佐藤健)がくすぶっていた理由だった。

 自称“ナチュラルボーングッドルッキング愛されガイ”の章は、その見た目の良さから女の子に不自由をしたことがないし、調子の良さから転々としながらも仕事にはありつけていた。生まれてから一度たりとも、どうしようもないほどの枯渇を経験したことのない若者。章は、物も情報も溢れている飽和社会を生きる私たちを投影したような存在だ。

 亜希子が住む街にもパン屋さんはいくつもある。ネットを使えば、遠方のパンだって買うことが可能な時代。可もなく不可もないフツウのパンでは、印象に残らず埋もれてしまうのだ。父(宇梶剛士)と同じことをしているつもりでも、それは、現状維持という名の退化のはじまり。なぜなら、同じ物を作り続けても、人は飽きてしまうから。食べる人も、そして作る人も。しかし、人は過ぎ去ったものほど美化したがる生きものだ。思い出の味はどんどん脳内で甘美な香りを放ち、後を追う形になった次の世代にとって決して超えられないコンプレックスとなる。

 先代のパンの味を再現しようと思った亜希子に「ウケないと思う。なんか説教くさい」と言ったみゆきの感覚こそ、次世代の切り拓く原動力だ。先代の成功をそのまま飲み込み「これがセオリーだ」「ウケるものを作れ」と、手堅くリスクの少ない道を選ぶことは、現実の社会でもよく見かける風景。先代の姿勢に学ぶのと、やり方をそのままコピーすることは全くの別物だ。亜希子が、みゆきの本当のママの真似をしようとして、失敗したのと同じように……。

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