佐藤健演じる章は現代を生きる私たちの姿だ 『義母と娘のブルース』が描く仕事との向き合い方

『ぎぼむす』が描く仕事との向き合い方

 「麦田さんにはないんですか? どういう店にしたいとか。麦田さんの店なのに?」大樹(井之脇海)が聞いたこの質問は、そのまま店=人生に変換できる。先代が成し遂げた成功の再来を追い求め、自分の成功体験をつめずにいる限り、仕事を面白いと思える日はこないだろう。自分がしたいことは何か、どう生きるのか。その問いは、視聴者である私たちにも向けられているような気がした。

 多くの物で満ち足りてる時代における最大の価値は、作り手自身のモチベーションだ。「自分がいいと思うものはこれだ!」と発信するポジティブなエネルギーこそ、その商品を選ぶ理由=オリジナリティになる。奇しくも、このドラマの原作漫画を描いた桜沢鈴も、長年語られてきた「時間は進まない」「キャラの内面的成長はない」「人が死ぬのはダメ」という4コマ漫画のセオリーから勇気を持って1歩踏み出し、自分の描きたいように描いた。だからこそ、『義母と娘のブルース』は多くの人の心を打つ作品となったのだ。

 世界一のパンを作ることも、世界一のママになることも、世界一の漫画を描くことも……きっと大事なのは自分のいいと思うものを信じる強さと、喜んでほしい相手を想う気持ち。それをすり合わせ続けることこそが、新しい価値を生む小さな奇跡の連続になる。

 「俺、角食の耳キライなんすよ。耳までうまい角食が食べたいって、ずっと思ってて。俺の作る角食ってそんなんでもいいんすかね。そんな感じで作ってみちゃったりしてもいいんすかね」。章も、気づかなかっただけで、“もっとこうなればいいのに”という気づきはそこにあったのだ。

 仕事はしんどいけど、しんどいことが楽しくなる瞬間がある。そのヒントは、なんでもブレストできる風通しの良さ、気になったら現場を調査するフットワークの軽さ、そして違うと思ったらすぐに路線変更する柔軟さ。今あるセオリーだって、最初は誰かの挑戦だったはずなのだから。そんなふうにして多くの人が、自分の仕事に小さな奇跡を起こし続け、日々を楽しむことができたら……今よりももっとワクワクせずにはいられない、宝探しのような未来がやってくるはずだ。それを作るのは、他でもなく今を生きる私たち自身。そんな希望を感じさせてくれるドラマも、いよいよ最終章。原作漫画のエンディングの通りになるのか、それとも……何が起こるかわからない、だからチェックせずにはいられない。いいお店も、いいドラマも同じのようだ。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
火曜ドラマ『義母と娘のブルース』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜23:07放送
出演:綾瀬はるか、竹野内豊、佐藤健、横溝菜帆、川村陽介、橋本真実、真凛、奥山佳恵、浅利陽介、浅野和之、麻生祐未
原作:『義母と娘のブルース』(ぶんか社刊)桜沢鈴
脚本:森下佳子
プロデュース:飯田和孝、大形美佑葵
演出:平川雄一朗、中前勇児
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/gibomusu_blues/

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